研究課題/領域番号 |
19K09579
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
沼野 智一 東京都立大学, 人間健康科学研究科, 准教授 (10399511)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | MRE / MR elastography / MRエラストグラフィ / Elastography / エラストグラフィ / 腰痛 / 非特異的腰痛 / 慢性腰痛 |
研究実績の概要 |
MR Elastography(MRE)とは生体内部を伝わる伝播波をMRIで可視化し,可視化した伝播波画像(Wave Image)の局所波長から定量的な硬さ画像(Elastogram)を求める「一連の撮像と画像処理」を指す. MREは触診が困難となる深層筋のElastogramを得ることができるので,深層筋を対象にした「定量的な疑似触診」を可能にする. 原因が特定できない腰痛(非特異的腰痛)の原因の1つに「大腰筋の持続性収縮」が示唆されてきたが,大腰筋は触診が困難なので,それを客観的に実証できなかった. そこで,MREを大腰筋に適用し,非特異的腰痛を評価できる新しい画像診断技術を開発している. MREでは生体内部の伝播波を可視化し,その波長から弾性率を算出するので,目的部位に適切な強度の振動を到達させることが重要である. これを達成させるために,腰椎の「剛体振動」が効果的に大腰筋に伝わることを実証し(Magn.Reson.Imaging 2019;63:85-92),この技術を「大腰筋MRE用加振パット」として特許申請(特願2019-050724)した. 大腰筋MRE用加振パットは仰向け被検者の腰部に設置することで,パットを設置する術者間の再現性を高くできると考えた. そこで本年度はこの再現性について検証した. 3名の被験者に対し,3名の術者がそれぞれ3回の大腰筋MREを実施した(総検査数27回). このとき,それぞれの大腰筋MREは「マグネットルーム入室→ポジショニング→大腰筋MRE→退出」を繰り返した. これらの再現性検証より,開発した大腰筋MRE用加振パットが高い再現性を持っていることを明らかにした(Applied Magn. Reson. 2021;52:157-168). この知見は今後の大腰筋MREを実施する上での信頼性を担保するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文公表した大腰筋MRE技術(Magn.Reson.Imaging 2019;63:85-92)とそれに付随する大腰筋MRE用加振パットの特許技術(特願2019-050724)の再現性検証を行った. 被検者の確保にCOVID-19の影響が少なからずあったものの,一昨年前からデータ取りを始めていたので,殆どの被検者データはCOVID-19の世界的流行前に確保できていた. 申請者が進める本研究はMRI製造メーカから独立した技術であり,申請者のペースで研究を進めることができる. これが「おおむね順調に進展している」理由だと思われる. 仮に申請者施設が管理するMRI装置の長期間故障があったとしても,申請者が開発しているMREシステムはどんなMRI装置にも後付が可能なシステムであるため,物理的に他のMRIシステムでも実施が可能である. なお,申請者施設が管理するMRI装置は教育備品(診療放射線技師養成所指定規則に準ずる)であるため,故障時には優先的に修理・修復される備品であり,実質的には長期間の故障による障害は発生しにくい.
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今後の研究の推進方策 |
今後は技術的な開発が完了しつつある大腰筋MREを用いて,多数の被検者を対象にしたボランティアスタディを実施する. 大腰筋の硬さを定量的に計測した報告が世界的にみてもこれまでにないので,我々のスタディが初の試みになる可能性が高い. まずは,健常者の一般的な大腰筋の硬さを評価する, この「標準的な大腰筋の硬さ」が測定されない限り,その後に続く非特異的腰痛患者の大腰筋硬さ測定値との比較ができない. よって,精度の高い「標準的な大腰筋の硬さ」を得るためには,多くの被検者での測定が必要になる. 国内のCOVID-19感染状況が今後どうなるかが全く予想できないので「多くの被検者での測定」は今後の感染状況に左右される.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で演題採択された国際会議がWeb開催となった. これにより,旅費の発生がなくなり,学会参加費もオンサイトで行う場合に比べて安くなった. ボランティアスタディの規模もCOVID-19の影響で縮小したので,これに伴う謝金利用等も少なくなった. 今後のCOVID-19がどのような影響を及ぼすかが不明であるが,研究成果発表のための国際会議費用とボランティアスタディに必要な費用を次年度に持ち越す.
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