研究課題
我が国では、超高齢社会の到来を受けた高齢者人口の増大に伴い、筋量と筋力がともに低下し、運動機能である握力や歩行能力の低下をきたすサルコペニアを発症する症例が増大している。サルコペニアは運動・移動能力の低下から高齢者の日常生活動作レベルの低下や、寝たきり、自立性の低下の原因となるなど、その対策は喫緊の課題である。しかし、現時点ではサルコペニアの発症機構は明らかではなく、有効な予防法も開発されていないのが現状である。そこで本研究では、サルコペニアの発症機構を解明し、その発症の予防法を開発することとした。ヒトでは20歳前後の年代をピークとして、加齢とともに血中濃度が低下することが知られている成長因子であるinsulin-like growth factor 1 (IGF1)に着目し、アダルトにおいて血中IGF1レベルを低下させるマウスを作出した。本モデルでは、血中IGF1濃度を人為的に、任意のタイミングで有意に低下させることが可能であることが明らかとなり、血中IGF1レベルを有意に低下させることができるマウスモデルの作出に成功した(IGF1 cKO)。また、本モデルでは若年齢であっても、IGF1濃度の低下に伴い、筋量と筋力がともに有意に低下する、サルコペニアの病態を再現することも見出した。つまりIGF1が生理的な筋量と筋力の維持に必須の役割を担っており、その有意な減少によっては、筋量と筋力がともに有意に低下することが明らかとなった。加齢によるサルコペニは多因子疾患と考えられており、様々なリスクファクターが複雑に絡み合って、病態を形成していると考えられてきたが、IGF1という単一の因子の低下のみによっても病態を再現させることが可能であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
申請者は、アダルトにおいて血中IGF1レベルを有意に低下させる新規モデルマウスの作出に成功し、また血中IGF1濃度の低下に伴い、筋量と筋力がともに有意に低下する、サルコペニアの病態を再現することも見出した。これは世界で初めての知見である。血中IGF1濃度はヒトにおいても加齢に伴い有意に低下することが知られており、本モデルマウスにおける血中IGF1の低下は、ヒトの加齢による低下の程度と符合していた。これまでサルコペニアは、加齢に伴う様々な因子が複雑に絡み合い病態を形成していると考えられてきたが、IGF1という単一の因子の低下のみによっても病態を再現させることが可能であることを明らかにしたことも大きな進捗と言える。
IGF1のみで筋量と筋力がともに制御されていることが明らかになったことから、IGF1あるいはIGF1と同等の作用を有する薬剤、もしくは血中IGF1レベルを上昇させ得る薬剤を開発することが目標である。すでにいくつかの候補薬剤があり、それらの効能を検討しているところである。もっとも効能が高く、安全性も高いものについては、臨床応用も含めた研究開発を進めていきたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件)
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