研究実績の概要 |
関節拘縮の代表的な疾患である五十肩(凍結肩)で軟骨化生が増加する病態を, ビタミンA(レチノイド, 脂溶性)の代謝経路に着目して解明するための準備を行った。研究代表者らのグループでは, 網羅的な遺伝子解析から軟骨化生(プロテオグリカンの増加)を, 網羅的なタンパク解析からグルタチオン(抗酸化), 脂質, レチノイド(ビタミンA, 脂溶性)代謝の低下を報告し, 新たな病態として提唱してきた。ビタミンA誘導体であるトレチノインやレチノイン酸の核内受容体(PAR, RXR)に対するアゴニストは, 間葉系幹細胞の骨への分化過程で, 軟骨分化を抑制する重要な因子であり, 既に異所性骨化症での治験(米国)も行われ, 良好な成績を得ている. 五十肩では脂質代謝の低下によって脂溶性のビタミンAが減少し, その結果, 軟骨化生が促進されている可能性が高い。2019年度は低ビタミンA飼料(AIN-93Gベース)のラット膝関節不動化モデルの作成のため、SDラットオス4週齢に低ビタミンA飼料摂取を開始した。12週齢で片側膝関節をプラスチックプレートとスクリューで150°屈曲位で固定し、採血・体重測定(摂取開始時、術前、回収時)を行い、血中ビタミンA濃度の低下を確認した。膝不動化期間を2, 4, 6, 8週とし、関節可動域計測を開始している。本モデルでは通常4-6週で関節拘縮が増悪する。関節可動域の評価は研究代表者らが独自に作成したレントゲン撮影が可能な「関節可動域計測器」を用いて測定を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きラット膝関節不動化モデル(通常食および低ビタミンA飼料(AIN-93Gベース))を用いて、膝関節可動域の計測, 関節包の組織変化, 超音波顕微鏡で関節包の音速(弾性)を計測, 関節包の遺伝子・タンパクの発現比較、血中ビタミンAの濃度測定(採血:初回手術時、実験終了時、関節包、ELISA法)を行う。低ビタミンA飼料によって関節拘縮が増悪した場合、レチノイン酸核内受容体(RAR、RXR)のアゴニストをゾンデで経口投与し、 前記と同様に実験を行い、関節拘縮の予防効果を検討する。 ヒト関節包サンプルを用いて、鏡視下手術を要した五十肩(凍結肩)群とコントロール群(腱板断裂)の関節包を比較し、ビタミンAの代謝について解析を行う。術前に普段の食事アンケートを行い、ビタミンAの摂取量を推定する。術前の採血サンプル、およびホモジェネートした関節包サンプルを使用し、ELISAでビタミンAの濃度を計測する。
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