研究課題/領域番号 |
19K09592
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 敏之 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80322759)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軟骨分化 / 転写制御 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
EMX2の発現制御メカニズムを明らかにするため、前年度までに構築したプロモーターからイントロン1の配列を組み込んだルシフェラーゼ・レポーターベクターのコンストラクトへSOX9以外の軟骨分化関連転写因子を作用させ、反応性を確認した。結果としてNFκβシグナル伝達系を司る転写因子RELA1がとくに上流1 kb からイントロン1の配列に強く反応することが明らかになった。SOX9のEMX2の転写制御への直接作用の有無を再検証するため、イントロン2 2.3 kb および3’UTR 1.5 kb の全長または部分配列をルシフェラーゼ・レポーターベクターへ組み込んで転写活性の変化を検証した。結果として終止コドンのすぐ下流にSOX9の強制発現時のみ強い転写活性をもつエンハンサー領域が存在することが明らかになった。同領域内にはSOX9エンハンサーに特徴的なペアからなるSRYファミリー転写因子結合モチーフが存在した。ゲルシフトアッセイにて同配列にin vitro translationで作成したSOX9蛋白が直接結合することを、確認した。 相互作用分子検索のためN末端Myc-tag付のEMX2のアデノウィルス発現系を構築しEMX2の発現とCOL2A1 mRNA誘導やalcian blue、ALP染色陽性化による軟骨分化誘導を確認した。この系を用いてMyc-tagによるpull-downの系を構築した。さらにLC-MS/MSによる質量分析にもっていくため、この系の大量化を試みた。 EMX2の下流分子の検索およびその検証の結果、前年度に加えさらに2種類、C3H10T1/2へのレトロウィルス発現系で軟骨分化誘導脳をもつサイトカインを同定した。うちひとつのサイトカインについてはヒト間葉系幹細胞へのアデノウィルス発現系で、COL2A1 mRNA誘導やalcian blue、ALP染色陽性化による軟骨分化誘導が確認され、軟骨再生薬の有望な候補となるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の課題として残ったSOXトリオによる転写活性化部位についてさらなる検討を実施しSOX9のエンハンサー配列と考えられる領域の同定に成功した。またプロモーターからイントロン1に作用する転写因子としてRELAを新たに同定した。 選択的スプライシングの検討については、exon 2の配列に対する欠失変異体を用いたスプライシングアッセイの実施により、ESEの候補領域を複数個所ある程度しぼりこむことに成功したが、特定のSRSF結合配列まで絞り込むまでにはいたらなかった。 相互作用分子について、結合エンハンサー配列を用いた検索を予定していたが、時間的な制約からEMX2のCOL2A1、SOX6遺伝子内の直接結合配列の同定にはいたらず、来年度に持ち越した。また蛋白・蛋白間結合を利用した検討については、ヒト間葉系幹細胞をホストセルとしたN末端Myc-tag付のEMX2アデノウィルス発現系によるpulldownの系を構築できたが、LC-MS/MSによる質量分析のための大量化に課題が残った。 下流分子の検索については、候補分子アプローチで前年度からあわせて3種類の軟骨分化誘導能をもつ新規サイトカインの情報を得ることができた。うち1種類についてはヒト間葉系幹細胞への軟骨分化誘導能をアデノウィルス発現系で確認ずみで、軟骨再生薬の有力な候補分子と考えられた。一方、これらの解析に時間および研究費が必要であり、RNA-sequencing によるスクリーニングは次年度へ持ち越した。 このように予定通りの部分、想定外の結果により追加の解析が必要となった部分、また想定以上の成果が得られた部分が混在しており、全体としておおむね順調な進捗状況と評価している。
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今後の研究の推進方策 |
選択的スプライシングの検証のため、作成済みの欠失変異体を間葉系・軟骨系の細胞株に遺伝子導入しRT-PCRでスプライシング異常(exon skip)を認めるか検証したが、ESE(exonic splicing enhancer)同定にいたるまでの絞り込みにはいたっていない。さらに短い領域の欠失または点変異体を作成し、ESEの同定とin silicoおよびRNA pulldown assayによるin vitroでのESE結合SRSF分子の検索を試みる。 EMX2の転写活性化を介した他分子との相互作用をみるため、作成済みのCOL2A1、SOX6プロモーター・レポーターベクターとEMX2の強制発現系を組み合わせ、EMX2の直接結合エンハンサーを同定する。同定した配列をベイトにファージディスプレイライブラリーを作用させ、EMX2と協調して働く転写因子の同定を試みる。 ヒト間葉系幹細胞へのMyc-tag-EMX2アデノウィルス強制発現系を用いたpull-down assay の系の大量化を試みる。得られた沈降蛋白についてLC-MS/MSによる質量分析を行い結合蛋白の情報を得る。 ヒト間葉系幹細胞へのアデノウィルスEMX2強制発現系を用いRNA-sequencingを行い下流分子の情報を網羅的に収集する。得られた分子の中からサイトカイン・リガンド・レセプターを抽出、C3H10T1/2へのレトロウィルス強制発現系で軟骨分化誘導能を検証し、軟骨再生薬の標的候補を得る。C3H10T1/2にて軟骨分化誘導能が確認された分子についてはヒト間葉系幹細胞に対するアデノウィルス発現系や市販または自作のサイトカインの直接添加により軟骨分化が誘導されるかさらなる検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画上当初予定の解析に加え、追加の検討が必要となり、費用のかかるRNA-シークエンス解析やライブラリースクリーニング、LC-MS/MSによる質量分析などの実施にいたらなかった。次年度使用額についてはこれら解析のため使用する予定である。
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