研究実績の概要 |
現在,生体に使用可能な接着剤はシアノアクリレート系,生体高分子-アルデヒド系,フィブリン系に大別される.シアノアクリレート系はアロンアルファに代表される接着剤であり,接着強度が高いことで優れているが,分解されて生じるホルムアルデヒドが生体に対する毒性を有する.生体高分子-アルデヒド系は接着強度が高いが,架橋剤に用いたホルムアルデヒドやグルタルアルデヒド等のアルデヒド化合物が毒性を示し,損傷部位の治癒を阻害することが知られている.フィブリン系は現在生体に最も用いられているが,血液由来成分から構成される接着剤であるため,組織治癒を阻害しないが,接着強度が十分ではない.また血液製剤であるため,ウイルス感染も懸念される.実臨床で使用できるほどの十分な接着強度と生体親和性を有する医療用接着剤は現時点において存在しない. 近年,共同研究者によってスケソウダラ由来のゼラチンを用いた医療用接着剤が開発され,従来より高い接着強度と生体親和性を有することがブタの血管を用いて確認されている.さらに,我々は同接着剤を末梢神経に用いることにより、組織再生を阻害せず,フィブリン系接着剤よりも有意に高い接着強度を有することを明らかにした. 共同研究者が開発した接着剤は液状の形態であるが、より臨床で使用しやすいシート状の形態(以下、タラ接着シート)も開発されている.シート状の形態にも,液状と同等もしくはそれ以上の接着強度ならびに接着後の組織の機能回復が期待されている. 本研究では,新規に開発されたタラ接着シートによる,断裂した神経を接着した際の強度の増強を確認する.さらに同タラ接着シートにて接着した神経組織の機能回復,癒着防止機能を検討し,将来的に実臨床での実用化を目的とする.
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