研究課題/領域番号 |
19K09611
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
田村 行識 神戸学院大学, 栄養学部, 講師 (40580262)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 亜鉛シグナル / 糖尿病 / グルココルチコイド / 筋萎縮 / 骨粗鬆症 |
研究実績の概要 |
筋量と骨量の維持は、健康長寿の実現のために重要である。筋と骨の両方の機能異常を引き起こす危険因子としては、糖尿病やグルココルチコイド(GC)投与および栄養飢餓が挙げられる。本研究では、細胞内亜鉛トランスポーターを介した亜鉛シグナルに着目し、糖尿病やGC投与、栄養飢餓に伴う筋骨格系障害との関連性と、治療標的としての可能性を探ることを目的としている。 本年度は、まず、ストレプトゾトシン誘導性糖尿病マウスの筋組織と骨組織における亜鉛シグナルの変化と、筋骨格系障害に対する亜鉛投与の効果を検討した。糖尿病マウスの腓腹筋および脛骨において、複数の亜鉛トランスポーターのダイナミックな発現変化を起こっており、これらの組織において亜鉛シグナルの変化が生じていることが示唆された。また、亜鉛投与により、糖尿病に伴う筋萎縮と骨粗鬆症の両方が改善された。 さらに、筋組織において糖尿病での発現変化が亜鉛投与により改善された亜鉛トランスポーターを探索したところ、ゴルジ体に発現するZip9とZip13が該当した。マウス骨格筋由来C2C12細胞を用いて、siRNAによってこれらの亜鉛トランスポーターの内因性発現を抑制したところ、ユビキチン-プロテアソーム系筋分解マーカーの著明な発現亢進と筋分化マーカーの著明な発現抑制がみられ、Zip9, Zip13が筋分解と筋分化を調節することが示唆された。 一方、筋細胞においてGC(Dexmethasone(Dex))処理による亜鉛トランスポーターの発現変化を検討したところ、小胞体・ゴルジ体に発現するZip7の発現低下がみられた。筋細胞におけるZip7の内因性発現を抑制したところ、Dex処理による筋分解亢進を増強することを見出した。 これらのことから、糖尿病およびGC投与が引き起こす筋組織や骨組織での亜鉛シグナルの異常が、筋骨格系障害に関与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、糖尿病マウスの筋組織および骨組織において、亜鉛トランスポーターの発現変化が認められ、亜鉛シグナルの変化を示唆する知見が得られた。さらに、ゴルジ体に発現するZip9およびZip13亜鉛トランスポーターの発現変化が、糖尿病に伴う筋分解の亢進や筋分化抑制に関与する可能性も見出した。また、糖尿病のみならず、GC投与下の筋萎縮に対する亜鉛シグナルの変化の関与についても検討を行い、筋細胞においてGC処理によって亜鉛シグナルの変化が引き起こされており、さらにZip7亜鉛トランスポーターがGC処理に伴う筋分解の調節に関与している可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた知見をさらに発展させるため、糖尿病性筋萎縮に対する亜鉛シグナルの変化の関与についての検討では、ゴルジ体に発現するZip9およびZip13の内因性発現抑制が、筋分解系亢進と筋分化抑制を引き起こすシグナル経路についてなど、詳細な分子機序の検討を行う。また、Zip9、Zip13がゴルジ体に発現する亜鉛トランスポーターであることから、ゴルジ体の形態変化や機能変化と、筋分解亢進と筋分化抑制との関連性を検討する。また、糖尿病性骨粗鬆症の病態においても亜鉛シグナルが関与する知見が本年度得られたが、骨芽細胞の機能維持に関与する新たな亜鉛トランスポーターの探索も行い、糖尿病性骨粗鬆症に関与する亜鉛トランスポーターも同定する予定である。さらに、GCが引き起こす筋分解におけるZip7の役割について、その分子機序やその機序に関与する細胞内小器官を検討することで、GC投与に伴う筋萎縮に対する亜鉛シグナル異常の関与について、さらに解明していきたい。これらに加えて、栄養飢餓に伴う筋量減少における亜鉛シグナル異常の関与についても検討を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の消耗品が輸入品で、当該年度内の納品が間に合わないことが判明し、翌年度の購入に変更したため。
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