研究課題/領域番号 |
19K09612
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
越智 健介 東邦大学, 医学部, 研究員 (70445203)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 末梢神経 / 神経損傷 / 神経虚血 / 神経内血流 / bFGF |
研究実績の概要 |
超高齢化社会の到来により、加齢によって難治化がすすむ難治性末梢神経障害に対する新規治療法の開発が喫緊の課題となっている。ヒト末梢神経内部の血流は 均等ではなく、血流量に乏しい「分水嶺」が存在するという新知見を世界に先駆けて見出し、さらに虚血が神経再生を阻害することに着眼し、従来の治療法に「分水嶺部の血流改善」という要素を加えることで、難治性末梢神経障害に対する新規治療法を開発できるのではないかと着想した。「神経内分水嶺内部への血管新生因子注入は、損傷神経の再生を促進させる」との独創的な仮説に基づいて、ラット急性神経損傷モデルの損傷神経に対して神経剥離術と分水嶺内(神経束間結合組織内)血管新生因子(塩基性線維芽細胞増殖因子:bFGF)注入を併用したところ、神経機能回復が有意に促進された。 本研究の目的は上記急性神経障害モデルに対する研究を完成させると同時に、慢性神経障害モデルに対しても同様の検証を加えることにより、 難治性末梢神経障害に対する新規治療法開発とその機序解明の基盤とすることである。 本研究では「分水嶺における神経内血流量増加は、高齢者を含む難治性末梢神経障害患者の神経再生能力を増大させるのではないか」という従来にない学術的「問い」に基づき、以下のような仮説をたてた。A) 神経障害部近位の分水嶺部神経内(神経束間結合組織)への血管新生因子注入は、分水嶺部の虚血状態を改善させることで「軸索再生に有利な環境」を構築できる;B) 従来の外科的治療と A)の併用(神経剥離術や神経移植術の際、分水嶺部へ血管新生因子を注入する)により、難治性末梢神経障害の神経再生能力が促進される。われわれの今回の研究により、この仮説が正しいことが示唆された。このことを応用することで、ヒトの各種難治性末梢神経障害に対する有効な新規治療法開発が可能となる可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
12週令のSDラットの坐骨神経に対して1)クリップ圧挫 (1.32N)+神経剥離術(クリップ群)、2)クリップ圧挫+神経剥離術後にPBS神経内注入(PBS群)、3) クリップ圧挫(1.32N)+神経剥離術後にbFGF 100ug神経内注入(bFGF群)の3種の処置(各群 n=8)を行い下記の結果を得た。1)疼痛逃避行動評価(von Frey test):クリップ群とPBS群では術後有意に閾値が低下したのに対し、bFGF群では低下しなかった。2) 運動/感覚神経伝導速度評価(MCV/SCV):MCV、SCVともに、bFGF群においてのみ有意な回復を示した。3)組織学的評価:bFGF群では薄い髄鞘を持つ再生神経線維が多く、クリップ群では変性神経線維が多くみられた。von Frey Testではクリップ群、PBS群においては非侵害刺激による閾値は低下したが、bFGF治療群では低下は認めなかった。このことよりbFGFは末梢神経が神経障害性疼痛を引き起こさず、神経線維再生をもたらした可能性がある。電気生理学的および病理学的検査では治療群がコントロール他群に比し早期からの神経線維再生が確認され、bFGFが神経再生を促進させる可能性が示唆された。 臨床応用を念頭においた場合、薬物の神経内注入よりも神経外注入の方がハードルは低い。そこで神経内注入モデルと同様の神経外注入モデル(超音波ガイド下に針を進め、bFGFを神経外の周囲組織に注入する)を完成させ、神経内注入モデルと同様の実験を行なった。その結果、神経外注入でも神経内注入と同様の結果が得られることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
超音波ガイド下の神経外注入モデルの有用性が明らかとなった。現在は臨床応用に向けて、本大学整形外科学教室と共同研究を進めている最中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的な新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、各種学会発表が困難になったため。次年度は試薬の購入やデータ解析、学会参加・論文発表などの費用に使用するよていである。
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