研究課題/領域番号 |
19K09614
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
上住 円 (池本円) 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (70435866)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 老化 / 再生 |
研究実績の概要 |
高齢者において転倒や骨折に伴う筋損傷からの回復の遅れは、要介護や寝たきりへと移行する主要原因となり、健康寿命延伸のために解決すべき重要課題である。我々は加齢に伴う筋再生能力の低下が骨格筋内環境の悪化に起因することを明らかにしている。この環境因子を探索するため、老化及び若齢マウスの再生過程骨格筋組織を用いて網羅的タンパク発現解析を行った。その結果、老化再生筋で発現低下している1因子を同定した。まず、この因子を欠損するマウスに筋損傷を誘導し、筋再生に対する影響を調べた。同腹仔の野生型マウスに比べ、欠損マウスでは、壊死線維や免疫系の浸潤細胞が残存し、明らかな筋再生の遅延が認められた。このことから、この因子の筋再生における重要性が示唆された。次に、この因子の筋再生における機能を検討するため、筋再生過程における発現変動を調べた。若齢マウスの下肢骨格筋に筋損傷を誘導後、経時的にサンプリングを行い、タンパクの発現を調べた。非損傷時に比べ、再生初期では発現が10倍以上増加し、再生が収束するにつれて徐々に減少することが分かった。また、筋組織の免疫染色から免疫細胞等でこの因子が発現することが示された。筋再生初期の免疫細胞の浸潤自体は、欠損マウスと野生型マウスの間で差は見られなかった。しかし、欠損マウスでは、免疫細胞の中でもマクロファージが再生後期においても残り続け、壊死線維の除去も抑制されていたことから、この因子は、筋再生において、マクロファージによる壊死線維の貪食に機能することが示唆された。本研究によって筋再生におけるこの因子の機能を明らかにすることにより、老化による筋再生能力低下機序の解明、さらにはその予防・治療法の開発へと発展が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨格筋は本来、非常に再生能力の高い組織であるが、加齢に伴いその能力は低下する。我々は加齢による筋再生能力の低下が骨格筋内環境の悪化に起因することを明らかにしており、老化及び若齢マウスの再生筋組織を用いた網羅的タンパク発現解析から、老化再生筋で発現低下し、環境悪化に寄与し得る因子として、Milk Fat Globule Epidermal Growth Factor 8 (MFG-E8) を同定した。まず、MFG-E8の筋再生における機能的重要性を検討するため、MFG-E8ノックアウトマウスにcardiotoxinを投与し、筋損傷を誘導した。筋再生7日後と14日後にサンプリングを行い、筋再生の程度を同腹仔の野生型マウスと比較したところ、再生後期においても壊死線維や浸潤細胞が残存し、明らかな筋再生の遅延が認められた。このことから、MFG-E8の筋再生における重要性が示された。次に、MFG-E8の筋再生における機能を検討するため、筋再生過程における発現変動を調べた。若齢マウスに筋損傷を誘導後、経時的にサンプリングを行い、タンパクの発現を調べた。非損傷筋に比べ、再生初期ではその発現が10倍以上増加し、再生が収束するにつれて徐々に減少することが分かった。また、筋組織の免疫染色から免疫細胞等でMFG-E8が発現していることが示された。筋再生初期の免疫細胞の浸潤自体は、ノックアウトマウスと野生型マウス間で差は認められなかったが、ノックアウトマウスでは、マクロファージが再生後期においても残り続け、壊死線維の除去も抑制されていた。従って、MFG-E8は、筋再生において、マクロファージによる壊死線維の貪食に機能することが示唆された。本研究によって筋再生におけるMFG-E8の機能を明らかにすることにより、老化による筋再生能力低下機序の解明、さらにはその予防・治療法の開発へと発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
1.MFG-E8ノックアウトマウス、老化マウス、野生型マウス間で再生筋由来各種細胞の能力を比較することによりMFG-E8の機能を明らかにする。 1) MFG-E8の発現が最も増大する筋再生time pointにおいて、各種細胞を分取し、細胞数への影響を明らかにする。2) 分取した各種細胞を培養し、増殖能や分化能を比較する。筋衛星細胞では筋菅細胞への分化、間葉系前駆細胞では脂肪細胞や線維芽細胞への分化、マクロファージでは死細胞の貪食能などを比較し、MFG-E8の低下がどの機能に影響を及ぼすか明らかにする。 2.MFG-E8ノックアウトおよび老化マウスの再生筋由来細胞にMFG-E8を添加することにより機能改善が見られるか検証する (in vitro)。上記1で明らかになったMFG-E8の低下で影響を受ける細胞をノックアウト及び老化マウスの再生筋から単離する。培養中にMFG-E8を添加し、その能力が改善されるか否か検証する。 3.老化マウスやMFG-E8ノックアウトマウスにMFG-E8を補充することにより筋再生能力が改善されるか否か検証する (in vivo)。1) MFG-E8を充填した浸透圧ポンプを筋損傷を誘導した老化マウスとMFG-E8ノックアウトマウスの皮下に移植し、持続投与する。PBS を投与した若齢マウスをコントロールとする。2) 投与終了後、筋を採取し凍結ブロックを作製する。切片のヘマトキシリン・エオジン染色や抗ミオシン重鎖抗体(筋形成能を調べる)及び抗マウスIgG抗体(壊死線維の有無)等を用いた免疫染色により、MFG-E8の投与が筋再生能力の改善に効果的であるか否かを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、昨年度に購入した抗体やマウスなどを用いて、いくつかの実験を行うことができた。また、COVID-19による緊急事態宣言などにより、学会がweb開催となり旅費の支出が無くなったことから、次年度使用額が生じた。翌年度は、ノックアウトマウスや老化マウスにリコンビナントタンパクを投与し、その効果を調べる予定であり、それらの購入のために翌年度分として請求した助成金と合わせて使用することを計画している。
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