高齢者において転倒や骨折に伴う筋損傷からの回復の遅れは、要介護や寝たきりへの移行原因となり、健康寿命延伸のために解決すべき重要課題である。研究代表者は加齢に伴う筋再生能力の低下が骨格筋内環境の悪化に起因することを明らかにしている。この環境因子を探索するため、老化及び若齢マウスの再生過程骨格筋組織を用いて網羅的タンパク発現解析を行い、老化再生筋で発現低下する1つの因子を同定した。この因子を欠損するマウスに筋損傷を誘導すると、同腹仔の野生型マウスに比べ筋再生遅延が認められたことから、この因子の筋再生における重要性が示唆された。続いて、この因子の筋再生における機能を調べるため、筋再生過程における発現変動を調べた。若齢マウスに筋損傷を誘導後、経時的にサンプリングを行い、タンパクの発現を調べたところ、非損傷時に比べ再生初期では発現が10倍以上増加し、再生が収束するにつれて徐々に減少することが明らかとなった。また、筋組織の免疫染色から免疫細胞での発現が確認された。筋再生初期における免疫細胞の浸潤は、欠損マウスと野生型マウスの間で差は認められなかったが、欠損マウスでは、免疫細胞の中でもマクロファージが再生後期においても残り続け、壊死線維も残存していたことから、この因子は、マクロファージによる壊死線維の貪食に機能することが示唆された。また、欠損マウスでは、再生過程において、骨格筋幹細胞の増殖低下やそれに伴う再生筋線維数の減少が認められた。さらに、再生後期における間葉系前駆細胞の残存や血管内皮細胞の減少も見られ、炎症や壊死線維が残り続けることにより再生遅延が生じていると考えられた。本研究は老化による筋再生能力低下機序の一端を解明するものであり、この成果は予防・治療法の開発へと発展が期待できる。
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