研究課題/領域番号 |
19K09620
|
研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
高橋 伸典 愛知医科大学, 医学部, 教授 (20570196)
|
研究分担者 |
小嶋 俊久 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (70378032)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 関節軟骨変性抑制 |
研究実績の概要 |
本研究では、関節軟骨細胞の脱分化におけるCD44断片化の意義と断片化抑制による脱分化制御、変形性関節症発生抑制の可能性を探っている。 昨年度までにHCS(ヒト軟骨細胞様細胞株)および牛関節軟骨細胞におけるCD44の断片化モデルを確立し、HMG-CoA還元酵素阻害剤であるSimvastatinによるCD44断片化抑制による脱分化抑制効果、およびsiRNAによるRNA干渉実験系と阻害剤添加実験系において、ADAM10がCD44断片化に関わる主要なプロテアーゼであることを明らかにした。 過剰な力学的負荷が変形性関節症(OA)における軟骨変性に関連することが知られている。過剰力学的負荷による脱分化導入モデルにおいてCD44断片化が促進されることがウシ関節軟骨細胞で明らかとなり、ST140(STREX社)を用いた周期的伸展負荷によるCD44の断片化と脱分化導入は再現性をもって確立された。各種阻害剤の添加実験を行い、メカニカルストレスによるCD44断片化においてもADAM10がその主要なプロテアーゼであることが確認された。牛関節軟骨細胞にCD44-ICD(細胞内断片)を強制発現させるとSox9をはじめとする関節軟骨細胞特異的遺伝子発現が抑制されたことから、CD44-ICD自体が脱分化導入を促進することが確認された。 OAモデルマウス(DMM:内側半月板不安定化モデル)作製技術を確立して、ADAM10の関節軟骨特異的ノックアウトマウス(Col2-Cre)におけるOA発生の抑制効果を検証している。ADAM10ノックアウトマウスの大腿骨頭をex-vivoでIL-1刺激を行うと関節軟骨の変性が野生型と比較して著明に抑制されていた。また強制走行モデルと老化モデルいずれにおいても、ADAM10ノックアウトマウスにおいて大腿骨頭の関節軟骨変性抑制が確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ADAM10阻害によるCD44断片化抑制と脱分化抑制、さらにCD44-ICDの強制発現による脱分化導入効果が確認された。CD44の断片化および産生された細胞内断片(CD44-ICD)そのものが関節軟骨細胞に脱分化作用を及ぼすことがin vitroで強く示唆された。ADAM10ノックアウトマウスを用いたOAモデルを使用してADAM10のOA発生に対する重要性について検証を進めているが、一般的に用いられるDMMモデルにおいては関節軟骨変性が強く現れすぎる傾向がある。そのため自然なOAモデルとして老化および強制走行モデルについて検討を開始して良好なデータを得ているが、両モデルともに結果を得るまでに長時間を要するため、実験の進捗を急ぐために新たなOAモデルの必要性が浮上している。いずれにしてもin vivoの検証系としてOAモデルマウスを用いた実験を継続して行う必要があるが、実験モデルは確立しておりADAM10の機能抑制(阻害剤の投与またはノックアウトマウス)がOAに対して与える影響についての検証をスムーズに進めることが出来る環境となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度までにin vitroのデータに加えてADAM10ノックアウトマウスにおけるin vivoのデータが集積されつつあり、来年度は引き続きin vivoの検証を中心に進める予定である。CD44の断片化抑制による、OAモデルマウスにおける関節軟骨変性の抑制効果を実証することが目的となる。主として二つのADAM10抑制モデルを用いる予定である。一つはADAM10阻害剤の関節内注射による、CD44の化学的断片化抑制モデル。もう一つはADAM10のノックアウトマウスを用いる系である。ADAM10阻害剤を用いる系、ノックアウトマウスを用いる系、いずれに対してもOAの導入方法としては内側半月板不安定化もしくは強制走行モデルを評価選択して用いる。 我々のADAM10のコンベンショナル・ノックアウトマウスが短命であった場合にはCol2-CreERT2マウスを用いて成長終了後にADAM10欠損を誘導するモデルを使用することも検討されたがこの点については問題を認めなかった。老化モデルにおける関節軟骨変性についても検証を継続する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により一時動物実験施設が使用不能となったこと、および大学院生の研究活動に対する抑制がかかったことによる実験計画の遅延。また走行モデルと老化モデルともに結果を得るまでに想定以上の期間を必要としたことによる実験計画の遅延。
|