腰部脊柱管狭窄症(LSS)の主要な原因として、椎間板変性による膨隆の他に、黄色靭帯肥厚が挙げられる。一方で、酸化low-density lipoprotein (LDL)は血管内皮細胞に存在するLOX-1(Lectin-like oxidized LDL receptor-1)と結合して動脈硬化を促進させることが知られている。しかしながら、酸化LDLやLOX-1が黄色靭帯肥厚に関与しているかはよくわかっていない。我々は、腰椎変性疾患で後方手術を受けた33例の腰椎変性疾患患者から黄色靭帯を採取し、それぞれ組織切片を作成し、LOX-1の免疫染色を行った。また、黄色靭帯から単離した黄色靭帯細胞を、酸化LDLを加えて24時間培養した後に、RNAを抽出し、real-time RT-PCR解析が行われた。プライマーは、肥厚に伴ってその発現が上昇することが知られているcollagen 1、collagen3、TNF-α、COX-2が使用された。最後に、これらの培養細胞に対して、高脂血症治療薬として使用されているHMG-CoA還元酵素阻害薬Simvastatinを加え、その効果を再度real-time RT-PCRで評価した。 結果として、LOX-1の免疫染色では、肥厚群と非肥厚群を比較すると、肥厚群では非肥厚群と比較してLOX-1の陽性細胞数が有意に高かった。Real-timeRT-PCR解析では、培養黄色靭帯細胞に酸化LDLを加えると、collagen 1、collagen 3、TNF-α、COX-2の発現はすべて有意に上昇した。更にこれらの細胞にSimvastatinを添加培養すると、すべてにおいてその上昇が抑制された。本研究結果から、黄色靭帯肥厚では動脈硬化と同様に、酸化LDL/LOX-1シグナルが活性化しており、高脂血症で上昇する酸化LDLが黄色靭帯肥厚を促進し、逆にSimvastatin投与が黄色靭帯肥厚を抑制する可能性が示唆された。更なる研究が必要ではあるが、これらのことから、高脂血症はLSSに関与しており、更には、HMG-CoA還元酵素阻害薬投与がLSSに対する治療の一つとなる可能性があると考えられた。
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