研究課題/領域番号 |
19K09636
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
堀内 圭輔 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 整形外科学, 准教授 (30327564)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 筋脂肪変性 / 筋線維化 / レチノイン酸受容体 / fibroadipose progenitor / 加齢 / 筋衛星細胞 |
研究実績の概要 |
骨格筋は極めて高い適応能力,再生能力を有する臓器である.しかしながら病的な状態では,筋萎縮のみならず,筋脂肪変性,線維化などが生じることが知られている.こうした病態は,筋組織の機能を著しく損なうが,効果的な予防法,治療法は確立していない.本研究の目的は,筋内幹細胞の機能・相互作用の解明を通して,筋萎縮,筋脂肪変性に対する予防法,治療法の開発につながる知見を得ることである.本研究計画では大別して,①レチノイン酸受容体(retinoic acid receptor,以下RAR)シグナルを標的とし筋内脂肪変性の抑制,②加齢に伴う筋内脂肪変性のメカニズム解明,および,③筋内脂肪変性進行過程の時空間的解明,の3項目の研究を実施予定である.①に関しては,マウス筋組織から単離したfibroadipose progenitorの脂肪細胞への分化をRARアンタゴニストが抑制することを明らかにした.また,申請者らの確立した筋内脂肪浸潤マウスモデルを用いた実験から,in vivoにおいても,RARアンタゴニストの経口もしくは筋肉注射で筋の脂肪変性を抑制することを観察している.現在,これらの実験の検証と並行して論文の準備を進めている.②に関しては老齢マウスが,成獣マウスに比較して脂肪変性が亢進した状態にあり,その原因の一つとして脂肪分化に関わる転写因子の発現が加齢とともに上昇することを示唆するデータが得られている.③に関しては,脂肪変性・線維化を誘導した筋組織を経時的に観察し,脂肪変性・線維化の発生様式を検討している.暫定的ながら,筋内腱組織周囲が脂肪変性の母床となっていることを観察している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の如く本研究計画では大別して3項目の研究を実施している.RARアゴニストの投与にて筋内脂肪浸潤が抑制しうることは,予備検討の段階で観察してた事項であるが,昨年度に実施した追試験で高い再現性を有することが確認された.また,筋脂肪変性の主要な起源細胞と考えられるfibroadipose progenitorを野生型マウスから単離し,RARアゴニストがin vitroの分化系において,fibroadipose progenitorの脂肪分化を強力に抑制しうることを観察している.これまでのデータはRARアゴニストの投与が筋脂肪変性の予防に有用であることを示唆しており,第一段階の目標をクリアしたと考える.現在,論文投稿の準備中である.加齢に伴う筋内脂肪変性に関しては,老齢マウス(50週齢以上)のマウスを利用し,老齢マウスでは成獣マウス(10週齢)と比較し,筋肉内脂肪変性の亢進度合いを検証している.これまでの結果から,加齢マウスでは優位に脂肪変性が悪化することを観察しており,マウスモデルが妥当であることが確認されている.現在,加齢に伴う筋肉内の遺伝子発現様式を解析し,加齢に伴う脂肪変性のメカニズムの解明を試みている.筋内脂肪変性進行過程の時空間的解明に関しては,われわれの作成した筋脂肪変性モデルマウスを利用し,腱板断裂後の脂肪浸潤を経時的に解析を行っている.初年度では,サンプルの準備,免疫染色の最適化などに時間を費やしたが,脂肪変性の発生母地が筋内腱周囲であること,筋内脂肪組織周囲に血管新生を伴うことなどを暫定的ながら観察している.今後は,これらの所見をより詳細に検証するとともに,脂肪変性に伴う血管新生および,fibroadipose progenitorを特異的に欠失した遺伝子改変マウスを利用し,筋脂肪変性のメカニズムの解析を進める.
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今後の研究の推進方策 |
レチノイン酸受容体シグナルを標的とした筋内脂肪変性の抑制に関しては,まずこれまで得られた知見をまとめ,本年度内に論文化の予定である.筋脂肪変性の進行に関わる分子メカニズムに関してはまだ知見が十分得られていないことから,腱断裂によって誘導される筋脂肪変性の分子メカニズムの解析を通して,検討したいと考えている.加齢に伴う筋内脂肪変性のメカニズム解明に関しては,加齢に伴い脂肪分化を促進すると考えられる転写因子の発現亢進が暫定的ながら観察されており,今年度はこれらの所見を検証するとともに,高齢マウスにおいても若年マウスと同様にRARアゴニストによる脂肪変性予防効果があるかを検討の予定である.筋内脂肪変性進行過程の時空間的解明に関しては,さらに組織学的な検討を加え,上記の新生血管ならびに,脂肪変性促進に関わると考えられている免疫細胞の関与を組織学的に明らかにしたいと考えている.また新生血管に関しては,抗VEGFA抗体であるBevacizumabなどの新生血管阻害薬を使用し,脂肪変性における新生血管を機能の解析を試みる.fibroadipose progenitorを特異的に欠失した遺伝子改変マウスは昨年度完成しており,本年度はまず本マウスモデルを利用し,筋脂肪変性および線維化におけるfibroadipose progenitorの関与を明らかにしたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
海外学会に関する諸経費が事務上の手続きの問題で本助成金から支払いができなかったため.その他,実質的な研究には問題はない.
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