研究実績の概要 |
骨格筋は極めて高い適応能力,再生能力を有する臓器である.しかしながら病的な状態では,筋萎縮のみならず,筋脂肪変性,線維化などが生じることが知られている.こうした病態は,筋組織の機能を著しく損なうが,効果的な予防法,治療法は確立していない.本研究の目的は,筋内幹細胞の機能・相互作用の解明を通して,筋萎縮,筋脂肪変性に対する予防法,治療法の開発につながる知見を得ることである.前年度は老齢マウス(50週齢以上)のマウスを利用し,老齢マウスでは若齢マウス(10週齢)と比較し,骨格筋内脂肪変性の亢進度合いを検証した.その結果,腱断裂によって生じる骨格筋の脂肪変性は加齢とともに急激に進行することが明らかとなった.興味深いことに,若齢マウスでは骨格筋の脂肪変性を誘導するには,筋断裂および支配神経の切断が通常必要であるのに対し,老齢マウスでは筋断裂のみで高率に脂肪変性が誘導されることが観察された.加齢に伴って生じる骨格筋脂肪化亢進のメカニズムの詳細は不明であるが,高齢マウスの骨格筋では脂肪分化マーカーの発現が若年マウスに比較し増加傾向であり,骨格筋内に存在する未分化間葉系細胞自体が加齢とともに脂肪分化へ偏っていることが示唆された.ヒトにおいても脂肪変性は主に高齢者で認め,また必ずしも神経断裂を伴っていないことから,老齢マウスを用いたマウス骨格筋脂肪変性モデルは,ヒトの病態をより正確に再現しうるモデルであると考えられた.これらの結果は英語論文に纏め期日中に採択となった(Arthroscopy 2022, 32).現在は,加齢マウスおよび若年マウスの骨格筋から未分化間葉系細胞を採取し,その遺伝発現プロファイルを解析することで,老化に伴う骨格筋変性をより詳細に検討中である.
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