研究課題/領域番号 |
19K09638
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
松井 康素 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, ロコモフレイルセンター, センター長 (50501623)
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研究分担者 |
大塚 礼 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 老年学・社会科学研究センター, 室長 (00532243)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | サルコペニア / 大腿部 / CT画像 / 筋断面積 / CT値 / 加齢変化 / 運動機能 |
研究実績の概要 |
加齢による筋肉減少(サルコペニア)は、健康寿命延伸のため重要観されている。近年では筋肉量に加え質の評価も着目されている(EWGSOP2 2018)。本研究では、生体中で加齢による筋肉の減少が最も著著な大腿四頭筋の大腿中央部CT断面像を活用し、加齢変化や運動機能その他との関連を明らかにする目的で検討した。 国立長寿医療研究センター病院内に設置したフレイル・サルコペニアレジストリによるデータベースを活用し、(A)要介護リスクの高まっている虚弱高齢者について大腿中央部CT画像より同部の大腿四頭筋筋断面積(CSA)や(値が低いほど筋組織の脂肪化を反映する)CT値などの画像評価と、昨年度の運動機能との関連(英論文採択)に加え、本年はフレイルや転倒、骨粗鬆症との関連を検討した。また地域で無作為抽出された中高年者を対象とした「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第7次調査において、(B)健常高齢者の同画像で同様の筋断面の評価により、昨年度の性・年代別の変化(英論文採択)に加え、本年は各種運動機能との関連を男女別に検討した。 結果として、外来患者383名を対象とした研究では、四頭筋全体と各筋肉のCSA がJ-CHS基準によるフレイル群はCSAがプレフレイルに比べ、またプレフレイルは壮健に比べ、CT値ではフレイルはプレフレイルに比べ有意に小さく、さらに転倒との関連も2回以上転倒群は転倒なしと比べ四頭筋全体のCSAと外側広筋でのCT値が有意に低く、骨粗鬆症については特に大腿骨頸部にてCSA、CT値ともに骨粗鬆症が有ると有意に低値という結果が得られた。NILS-LSAでの一般住民520名を対象とした各種運動機能との関連を男女別に調査した結果研究では、CSAは男性ではバランス以外のすべてで相関を認めたが、女性は握力、膝伸展筋力、脚伸展パワーのみ相関を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、対象を(A)病院へ通院する虚弱高齢者(フレイル、サルコペニアレジストリ登録者)ならびに(B)地域在住中高年者(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究―NILS-LSAによる)とした2つの研究を進めている。(A)では大腿中央部筋肉の像測定値と運動機能との関連について2019年度に続き解析を進め、複合運動は断面積よりむしろ、CT値の方が良く関連することを英語論文化し採択された。また四頭筋全体と各筋肉のCSAが、フレイル群はプレフレイルに比し、またプレフレイルは壮健に比し、CT値もフレイルはプレフレイルに比し有意に小さいことが判明。転倒との関連も、四頭筋全体のCSAは2回以上転倒群は転倒無しと比べ、CT値では外側広筋が2回以上転倒は無しと比べ有意に低く、骨粗鬆症については、特に大腿骨頸部でCSA、CT値とも骨粗鬆症が有ると有意に低値であるという結果が得られ、ほぼ予定通り進んでいる。 (B)の疫学研究も、昨年度より引き続いて解析してきた大腿四頭筋の断面積とCT値の年代による低下が、男女で、また4つの筋肉毎に異なることを世界で初めて明らかにし、high impact journal に採択が決まったことは特筆に値する。さらに、各種運動機能検査(握力、膝伸展筋力、脚伸展パワー、sit up、通常歩行速度、バランス、反応時間)について男女別に、大腿四頭筋の断面積(CSA)とCT値との相関を調べた結果、CSAは男性では、バランス以外のすべてで相関を認めたが、女性は、握力、膝伸展筋力、脚伸展パワーのみ相関を認めた。一方CT値は男性では膝伸展筋力、脚伸展パワー、通常歩行速度、反応時間で有意な相関を認めたが、女性では、膝伸展筋力、sit upのみで有意な相関を認めた。女性でsit up がCT値のみ有意差を認めたのは興味深い。このように疫学研究もほぼ予定通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本年度もおおむね予定した解析を、外来受診者と一般住民に対する疫学調査のデータで行うことができた。最終年度の予定としては、外来受診者対象のレジストリでは、症例数を増やしつつ服薬名からみた罹病や認知機能との関連についても解析を進め、加えて初診時の四頭筋CT断面画像の評価による、1年後の各種運動機能変化への影響を明らかにし、また3年間の追跡結果にて、要介護状態変化、緊急入院、転倒、骨折発生などフレイル進行への影響を明らかにする予定である。 一般住民対象の疫学研究では、CT画像の、サルコペニア診断としての有用性や、筋量の補正方法として、身長やBMIで除すなど、どのように行うのがより適切であるか、あるいは、筋断面積による筋量評価とCT値での筋質評価を組み合わせることの影響、また大腿近位部や腰椎骨密度との関連についてもさらに検討する予定である。また筋断面画像と各種疾患や身体的フレイルとの関連、そして筋肉と脂肪の断面積の比や、皮下脂肪と筋間脂肪の意義を含めたより詳細な検討を行う。さらには長期的な予後として死亡との関連を検討するなどの解析も予定する。 これら2つのコホートでの解析結果を、引き続き積極的に国内外に向け、学会や英語論文にて研究成果を発信する。大腿中央部CTでの大腿四頭筋筋断面計測は、従来用いられてきたDXA、BIA法などの診断指標とは異なり、日内変動や下肢の浮腫に影響されない安定した客観性の高い指標である。測定誤差も小さい。大腿四頭筋の筋肉別評価も可能であり筋肉による違いも明らかになりつつある。こうした利点を生かし、また従来評価法では予後への影響が十分明らかではなかった筋肉の質的な評価も可能となる。本研究にてサルコペニア診断におけるCT画像評価の有用性を明らかにし、将来的には筋肉変化に応じたより適切な筋トレメニュー考案に繋げる等、健康寿命延伸への貢献が見込まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文掲載費の請求が年度内に来なかったため、次年度に論文掲載費として使用します。
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