研究課題/領域番号 |
19K09641
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢野 文子 東京大学, 医学部附属病院, 届出研究員 (80529040)
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研究分担者 |
大島 寧 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (50570016)
谷口 優樹 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (80722165)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 変形性膝関節症 / ルブリシン / Prg4 / 関節軟骨 |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度に引き続き、Prg4CreERt2マウスにRosa26-tdTomato (Ai14)とこれまでに我々のラボで同定してきた、変形性膝関節症(OA)に関わる分子のfloxマウスを掛け合わせ、内側半月板を不安定化させ、変形性膝関節症を外科的に誘導するモデル(DMMモデル)を行い、組織学的解析とマイクロCT画像解析により評価した。Prg4CreERt:Ai14と掛け合わせたfloxマウスは骨・軟骨分化に必須であり、接着分子のひとつである、βcatenin floxマウス、低酸素誘導分子であるHif2floxマウス、炎症性シグナルのNFkapppaBの下流分子であるRela floxマウス、メカノセンサーの一つであるTRPV2floxマウス、骨・軟骨分化必須因子のRunx2flox, Runx3floxなど様々な関節組織に重要な働きをしている分子のfloxマウスを掛け合わせている。その中でも、TRPV2は正常軟骨組織に発現しており、軟骨の変性とともにその発現は減弱することから、軟骨表層におけるPrg4の発現を確認したところ、TRPV2が関節軟骨でノックアウトされたマウスではPrg4の発現は消失していた。TRPV2はメカニカルストレスに応答し、CREBの活性化を介し、Prg4の発現を増強させ、関節軟骨の維持と異所性骨化を抑制していることが示唆された(Nakamoto et al., Arthritis Rheumatol. 2021 Aug;73(8):1441-1450.)。これらの結果から、TRPV2シグナルのアゴニストやCREBシグナルを増強させる化合物も変形性関節症治療の候補薬になるのではないかと示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Prg4CreマウスやRosa26-tdTomato (Ai14)マウスだけでなく、これまで当教室で作出したり、購入した様々な骨・軟骨分化に関連する遺伝子のfloxマウスを持っているため、それらを掛け合わせることで、Prg4発現細胞における遺伝子ノックアウトを行うことで、動物モデルやマウス初代培養軟骨細胞、最表層細胞を用いて解析ができている。 また、滑膜組織にも着目し、滑膜組織表層に存在するPrg4発現陽性細胞の関節変性モデル下での挙動や軟骨組織修復機構に与える影響を解析している。滑膜組織、関節軟骨、半月板など、Prg4陽性細胞が発現している部位別に解析し、どのようにPrg4が関節の恒常性維持に寄与しているかを探索している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで骨・軟骨代謝に必須の遺伝子のfloxマウスとPrg4Cre;Rosa26-tdTomato (Ai14)マウスを掛け合わせることで、Prg4発現陽性細胞においてターゲット分子がノックアウトされたマウスの変形性膝関節症モデルの病態解析を行ってきた。今後も変形性膝関節症の発症因子となる分子やシグナルを同定し、そのシグナルを抑制、または、調節できる化合物、抗体など、変形性膝関節症の初期から中期の病態を治療できるような候補薬を探索する予定である。 そのために、滑膜組織も含めた、関節の恒常性の維持のメカニズムにもアプローチし、RNAシーケンシングを用いた網羅的解析を使って解析していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Prg4発現陽性細胞は関節軟骨最表層だけでなく、正常の関節の滑膜組織、半月板、靱帯にも発現しており、炎症反応に応じて、Prg4の発現が変化することを捉えた。疾患モデルの炎症の急性期や組織修復にPrg4発現陽性細胞がどのように振舞っているのか、組織解析やRNAシーケンシング解析を行うことで、Prg4が担う、関節組織の恒常性の維持のメカニズムを解明することができるのではないかと考えている。次年度も引き続き、Prg4Creマウスを用いて、マウス病態モデルを作成し、解析することを計画している。
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