研究課題/領域番号 |
19K09646
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松下 雅樹 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座助教 (60721115)
|
研究分担者 |
鬼頭 浩史 名古屋大学, 医学部, 招へい教員 (40291174)
三島 健一 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (40646519)
長田 侃 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (80815324)
神谷 庸成 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (50845542)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | メクロジン / 軟骨無形成症 / FGFR3 / 低身長 |
研究実績の概要 |
乗り物酔い防止薬の成分であるメクロジンは軟骨細胞において線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3 : FGFR3) シグナルを抑制し、軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)マウスモデルへの経口投与により骨伸長促進効果が認められている。これまでの研究で、7日齢のACHマウスモデル(Achマウス)に10日間メクロジンを投与したところ、1および2 mg/kg/dayで濃度依存性に骨伸長を促進したが、20 mg/kg/dayでは有効性が認められなかった。令和1年度は、4および8 mg/kg/dayをAchマウスに同様のプロトコールで投与し骨長を評価した。メクロジン4 mg/kg/dayをAchマウスに投与すると骨伸長は促進されたが、8 mg/kg/dayではほとんど有効性は認められなかった。また、メクロジン2、20、50、および100 mg/kg/dayを同様のプロトコールで投与すると、20 mg/kg/day以上では体重減少と肝腫大が認められた。以上の結果により、本プロトコールにおいてはメクロジン2 mg/kg/dayが、副作用が少なく最大限骨伸長効果を発揮できる用量と考えた。 メクロジンはFGFR3下流のERKのリン酸化抑制によりFGFR3の機能獲得型変異により発症するヒトACHが治療できるという作業仮説の域に留まっており、メクロジンはERKを直接または間接的に抑制するのか証明されていない。そこで令和1年度は、キナーゼアッセイによりMAPK経路におけるメクロジンのリン酸化抑制効果を検討したところ、メクロジンはMAP3K3のリン酸化を抑制することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和1年度は、4および8 mg/kg/dayを7日齢のAchマウスに10日間経口投与し骨長をマイクロCTを用いて評価した。メクロジン4 mg/kg/dayをAchマウスに投与すると骨伸長は促進されたが、8 mg/kg/dayではほとんど有効性は認められなかった。また、メクロジン4 mg/kg/dayはAchマウスの骨幹端部の骨梁構造を改善させたが、8 mg/kg/dayではほとんど効果は認められなかった。さらに、メクロジン2、20、50、および100 mg/kg/dayを同様のプロトコールで投与すると、20 mg/kg/day以上では体重減少と肝腫大が認められた。副作用が少なく最大限骨伸長効果を発揮できる用量と考えたメクロジン2 mg/kg/dayを同様のプロトコールでHypマウスに投与し、Hypマウスの骨伸長を促進しただけでなく、石灰化障害をレスキューした。 メクロジンの作用機序の検討のためにMAPKシグナルカスケードに属する複数のキナーゼとメクロジンを混合して反応させ、27種類のシグナルカスケードに対する阻害をmobility shift assayにより評価した。メクロジンはMAP3K3カスケードのリン酸化を41.8%抑制した。これまでの研究から予想されていたMEK1およびMEK2のリン酸化抑制は、それぞれ7.2%および14.5%と抑制効果は軽度だった。メクロジンはMAPK経路のMEK1/2よりもMAP3K3のリン酸化を抑制することが示唆された。 令和1年度は、Achマウスにおいて2 mg/kg/dayがメクロジンの骨伸長効果を発揮する最も有効な投与量であることを示すことができた。また、キナーゼアッセイによりメクロジンはMAPK経路においてMAP3K3のリン酸化を抑制することが示唆された。以上により、本研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究よりメクロジンはMAPK経路においてMEK1/2のリン酸化を抑制することが予想されていた。しかし、令和1年度に施行したキナーゼアッセイでは、メクロジンはMEK1/2のリン酸化抑制効果は軽度だったのに対し、さらに上流のMAP3K3のリン酸化を抑制することが示唆された。令和2年度は、軟骨細胞における細胞内シグナルの検討を行うために、Rat chondrosarcoma(RCS)細胞にメクロジンを添加した後にFGF2を加えFGFR3シグナルが活性化した一定時間後にMAP3K3やMAP2K6のリン酸化抑制効果の評価に加え、ERK、p38、JNK経路における効果をウエスタンブロッティング法により評価する。 Achマウスで最も効果を発揮するメクロジン2 mg/kg/dayは、Hypマウスにおいても有効であることを令和1年に示した。令和2年には、メクロジン2 mg/kg/dayの有効性を検証するためにHypマウスのサンプルサイズを増やし全長および尾長を経時的に計測する。また、最終投与後に大腿骨と脛骨の骨幹端部の骨梁および骨幹部の骨皮質の組織標本をVillanueva Goldner染色しosteoid volume/bone volume (OV/BV) を定量する。さらに、全血採取し、血清カルシウム、リン、FGF23を計測する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和1年度は、キナーゼアッセイ、マウスモデルへの投薬、体長および尾長の計測、マイクロCT撮影と骨長の計測中心であり、すでに研究室内にある物品で実験を行うことができた。令和2年度には、細胞内シグナルの検討を行うため、細胞実験のための培養液、FGF2、薬剤、ウエスタンブロッティングを行うための消耗品等が必要である。また、マウスモデルを用いた実験では、組織学的検討を中心に行う予定であり、各種染色を行うために使用額が生じる。
|