研究課題
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis, RA)は慢性的な関炎と関節変形・破壊を主徴とする慢性炎症性疾患である。RAは様々な要因によって発症する多因子疾患と考えられ、その発症機構の詳細は不明のままである。今日、炎症性サイトカインであるTNFやIL-6に対する生物学的製剤やシグナル伝達を担うJAK(Janus Kinase)に対する阻害剤が次々と開発され、臨床応用されてきている。我々は、シグナル分子で転写因子でもあるsignal transducer and activator of transcription 3 (Stat3)がRA患者で血中濃度が上昇しているとされる3大炎症性サイトカインであるTNF, IL-6, IL-1のいずれによっても活性化され、さらにStat3が活性化されることにより炎症性サイトカインの発現が誘導される炎症性サイトカインによる炎症性サイトカインのpositive feedback loopを形成する鍵因子であることを明らかにした。さらに、Stat3の活性化により破骨細胞分化において必須の役割を担うサイトカインであるreceptor activator of nuclear factor kappa B ligand (RANKL)の発現も誘導されること、アダルトにおいてStat3を抑制したRAモデルマウスでは、炎症性サイトカイン及びRANKLの発現のいずれもが抑制され、関節炎の発症が劇的に抑制できることを見出した。このことは、Stat3がRA治療の治療標的となり得ることを示唆している。そこで、Stat3を阻害する阻害薬のスクリーニングを行い、新規に数十種類におよぶ阻害薬候補薬の同定に成功した。現在、これらの候補薬について、まずはin vitroでの効能評価を行い、効能が確認できたものについてin vivoの効能評価を進めている。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、約490万種類の低分子化合物ライブラリーからStat3を阻害する可能性のある候補薬剤のスクリーニングを行い、一次スクリーニングの結果として約4,000種類のStat3阻害薬の候補分子を同定した。その後、様々なスクリーニングを実施した結果、Stat3の阻害活性が期待できる薬剤候補として数十種類の化合物までの絞り込みを完了した。その後、in vivo試験まで実施可能な量の化合物の合成が可能か、といった実現可能性に関する絞り込みを行い、最終的に十数種類の化合物までの絞り込みを完了させた。現在、これら最終的に絞り込んだ化合物について、まずはin vitroで炎症性サイトカインによる炎症性サイトカインのpositive feedback loopに対する抑制効果を検証する効能評価を実施しているところである。すでに、複数の化合物で抑制効果を認めている。Stat3を標的とした阻害薬のスクリーニングを行い、絞り込みを完了していること、複数の化合物で少なくともin vitroで効能を確認できることで、おおむね順調に進展していると判断している。
今後は、絞り込んだ化合物全てについて、in vitroにおいて炎症性サイトカインによる炎症性サイトカインのpositive feedback loopに対する抑制効果を検証する効能評価を実施する。効果が確認できたものについては、再現性を確認するとともに、in vivoにおける効能評価を行う。in vivoの効能評価としてはマウスを用いたRAモデルを予定しており、関節炎の抑制効果について関節腫脹の測定や組織学的な解析で評価を行う。また、生化学的にもStat3の発現抑制やリン酸化抑制など、Stat3の阻害点を明らかにする。In vitroならびにin vivoでStat3の抑制効果及びRAモデルにおける関節炎の抑制効果を認めたものについては、知財化等を検討する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Sci Rep.
巻: 9 ページ: 18741
10.1038/s41598-019-55297-2.
巻: 9 ページ: 6787
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