研究課題
関節リウマチ(RA)や自己炎症症候群などの関節炎疾患では、関節炎と関節破壊が慢性的に継続し、ADLやQOLに重大な支障をきたすが、なぜ関節炎と関節破壊が慢性化するのか、ということは明らかではなかった。我々は、この関節炎と関節破壊の慢性化が炎症性サイトカインによるポジティブフィードバックループにより起こること、このループには転写因子signal transducer and activator of transcription factor 3 (Stat3)が必須の役割を担っていること、Stat3の阻害により関節炎と関節破壊のいずれもを抑制できる可能性を見出している(Int Immunol 2011, Sci Rep 2017)。そこで、本研究ではRAについてはStat3を阻害する新たな方法の開発を、有用な動物モデルがなく解明が特に進んでいない自己炎症症候群については、治療標的を同定することを目的としている。まず新たな自己炎症症候群モデルマウスとして、アダルトなど、任意のタイミングで全身的なhuman IL-1 (hIL-1)を発現するhIL-1 cTgマウスを新規に樹立し、IL-1シグナルが亢進していることや大関節優位の関節炎の発症、内臓の障害など、ヒトの自己炎症症候群の病態を非常によく反映していることを確認した。このモデルでは、血清中のIL-6、IL-17濃度が有意に上昇し、関節滑膜や軟骨下骨ではStat3が活性化していること、これらそれぞれの遺伝子欠損マウスとhIL-1 cTgとの交配によっては、いずれの遺伝子欠損マウスとの交配であっても、hIL-1 cTgに見られる関節炎と関節破壊が有意に抑制できることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
申請者は、アダルトにおいて血中hIL-1レベルを有意に低下させる新規モデルマウスの作出に成功し(hIL-1 cTgマウス)、当該マウスモデルがヒトの自己炎症症候群の病態を反映しており、診断クライテリアも網羅することを確認している。hIL-1 cTgマウスでは網羅的なサイトカインアレイで、血清中のIL-6、IL-17濃度が有意に上昇し、免疫染色では関節滑膜や軟骨下骨ではStat3が活性化していること、これらそれぞれの遺伝子欠損マウスとhIL-1 cTgマウスとの交配によっては、いずれの遺伝子欠損マウスとの交配であっても、hIL-1 cTgマウスに見られる関節炎と関節破壊が有意に抑制できることを見出し、これらが、自己炎症症候群の治療標的となり得る可能性を見出した。RAについては、すでにStat3が治療標的となり得ることを見出していたことから、drug repositioningの手法を用いて、Stat3の活性を阻害する化合物のスクリーニングを行い、複数の化合物がまずin vitroのスクリーニング系でヒットし、ヒットしたものについて、2次スクリーニングでその抑制効果を検証した。続いてこのヒット化合物をRAのin vivoモデルであるcollagen induced arthritis (CIA)モデルへ投与する試験を行い、Stat3の抑制から、関節炎の抑制効果があることを見出している。これらの進捗状況から、研究が概ね順調に進行していると判断した。
自己炎症症候群のモデルであるhIL-1 cTgマウスについては、新たな治療標的の可能性についても見出しており、更なる治療標的の同定を進めていきたいと考えている。すでに、当該治療標的の遺伝子欠損マウスとhIL-1 cTgマウスとの交配は進めており、結果の検証段階に入っている。RAについては、Stat3を抑制する新たな候補化合物をすでに複数同定しており、これらの化合物のStat3抑制能とin vivoにおけるCIAモデルマウスにおける関節炎抑制能について検証を進めているところである。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件)
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