PAI-1は線溶系に重要なプラスミノーゲン活性化因子(PA)を阻害する因子で、骨粗鬆症・糖尿病・心血管疾患・癌など、止血作用以外に種々の疾患の病態に関与することが知られてきた。我々は以前に、PAI-1が雌マウスでのみ糖尿病性骨粗鬆症の病態に関与し、雄由来ではなく雌由来の骨芽細胞でのみ、骨芽細胞の分化や機能を抑制することを示した(Diabetes 2013)。しかし、PAI-1が雌骨芽細胞でのみ抑制作用を示す機序は不明であった。そこで、今回PAI-1刺激により発現が雌でのみ増加する因子の同定を、網羅的遺伝子発現解析(cDNAマイクロアレイ)を用いて試みた。 雄雌マウス新生仔由来骨芽細胞にPAI-1を添加し、雌でのみPAI-1により発現が2.5倍以上 増加した遺伝子を抽出したところ、RanBP3LやCcl3を含む41個の遺伝子が抽出された。 遺伝子発現解析により、Ccl3はPAI-1で刺激した雌由来骨芽細胞株には有意な発現上昇は見られなかったことからCcl3はPAI-1により誘導される因子ではないものとして除外した。一方、PAI-1刺激によって雌由来骨芽細胞で有意な発現上昇を見られたため、PAI-1刺激によって発現が誘導され、骨芽細胞の機能抑制を生じさせる因子の一つである可能性が高まったため、解析を進めることにした。RanBP3L過剰発現は、マウス骨芽細胞様MC3T3-E1細胞の分化やALP活性を抑制した。さらには、RanBP3L過剰発現は、BMP2刺激によりSmadのリン酸化を抑制していた。 以上より、PAI-1によって雌由来骨芽細胞の機能を抑制される原因因子の一つとしてRanBP3Lが考えられ、PAI-1を介した糖尿病性骨粗鬆症の病態に関与していることが示唆される。
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