研究課題
モデル動物とヒト疾患患者検体を用いた解析から、2019年度は下記の成果が得られた。精子頭部特異的に発現している非ミトコンドリア型クエン酸合成酵素(eCS)に注目し、eCsが卵内のカルシウム波を誘導することを見出した。eCSの機能を明らかにするため、eCs遺伝子欠損マウスを作製した。eCs遺伝子欠損マウスから得られた精子は野生型マウスの卵内のカルシウム波を誘導するが、その誘導開始時期は大きく遅れていた。さらに、生後2~3か月齢のeCs遺伝子欠損雄マウスは野生型雄マウスと同等の妊孕性を有するが、生後6か月齢以降のeCs遺伝子欠損雄マウスの妊孕性は著しく低下した。卵活性化の精子ファクターはこれまで一つだと考えられていた。われわれはeCSが、もう一つの新規精子ファクターとして機能することと、加齢に伴う雄性不妊を抑制することを明らかにした。Y染色体喪失は正常な核型46,XY細胞からY染色体が失われた状態である。Y染色体喪失細胞と正常細胞が混在しているモザイクY染色体喪失の頻度は、加齢とともに増加することが報告されている。Y染色体上には多数の精子形成関連遺伝子が存在する。そのため、生殖年齢前の若年男性にモザイクY染色体喪失が生じた場合、当該男性はこれらの遺伝子欠失に起因する精子形成障害と不妊症を招く可能性がある。日本人非閉塞性無精子症患者198例を対象にして、モザイクY染色体喪失のスクリーニングを行った。その結果、生殖年齢の非閉塞性無精子症患者におけるモザイクY染色体喪失は稀であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
2019年度はモデル動物とヒト疾患患者検体を用いた解析を行い、生後の精巣(精子)の機能獲得に関与する新たな因子と現象の解明を行うことができた。
性分化関連因子であるMAMLD1は、胎生期の精巣において男性ホルモン産生の調節因子として機能している。われわれはMAMLD1機能喪失が患者とモデル動物で共通して生後の精巣容量の減少を招くことを報告した。今後、モデル動物の表現型解析と培養細胞による機能解析を行い、生後の精巣においてMAMLD1を介する新たな分子機構を解明する。さらに、無精子症・乏精子症などの造精機能障害を起こす新たな発症機序の解明や男性不妊症や男性更年期障害の治療に関する知見の獲得を目指す。
2019度は当初の予定よりも物品費の使用額を抑えることができたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額と2020年度配分額と合わせて、2020年度の研究計画を実行する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件)
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