研究課題
モデル動物とヒト疾患患者検体を用いた解析から、2020年度は下記の成果が得られた。主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex、以下MHC)をコードする遺伝子領域は、免疫において重要な働きを担うことが知られている。マウスのMHCクラスIによる自己認識機構に着目し、受精時の精子と卵子の認識機構・膜融合機構における働きを解析した。MHCクラスI抗原を欠損させたマウスの表現型解析を行い、この欠損によって特定の精子と卵子が受精しやすくなることを見出した。われわれは、精子に発現するMHCクラスIには多精子受精を抑制する働きがあることを明らかにした。Nonsense-associated altered splicing機構によるMAP3K1スプライシング変異をもつ46,XY性分化疾患の兄弟例について報告した。エクソーム解析で同定されたMAP3K1遺伝子におけるヘテロ接合性1塩基置換(c.2254C>T)は、ナンセンス変異(p.Gln752Ter)としてナンセンス変異依存mRNA分解機構を招くと推測された。しかし、患者のリンパ芽球細胞を用いたRT-PCR解析の結果、同定されたバリアントが新規のスプライスドナーサイトをつくり、39アミノ酸の欠失(p.Gln752_Arg790del)を招くことが明らかになった。両患者は性腺機能亢進の有無に関わらず、外陰部の男性化不全を示した。テストステロンエナント酸注射とジヒドロテストステロン軟膏の塗布では、両患者のペニスサイズのわずかな増加しか認められなかった。われわれのデータは、精巣発育不全とアンドロゲン不応の組み合わせがMAP3K1異常の表現型であることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
2020年度もモデル動物とヒト疾患患者検体を用いた解析を行った。その結果、生後の精巣の機能獲得に関与する新たな因子を同定することができた。得られた知見は生後の精巣発育および機能獲得に関する新たな分子機構の解明に役立つ。
性分化関連因子であるMAMLD1の機能喪失は患者とモデル動物において生後の精巣容量の減少を招く。そこで、野生型とMamld1欠損マウスの精巣を用いて、Mamld1遺伝子の発現量の増減によって発現量が変動する遺伝子を抽出する。われわれは、体細胞におけるモザイクY染色体喪失と性分化疾患や無精子症との関連について報告している。体細胞におけるモザイクY染色体喪失と男性の健康に関する研究も行う。
2020度は当初の予定よりも旅費を抑えることができたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額と2021年度配分額と合わせて、2021年度の研究計画を実行する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (1件)
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