研究実績の概要 |
本年度は、アンドロゲン感受性が異なる複数の前立腺癌細胞を用いて、線維芽細胞からのパラクライン刺激による癌関連遺伝子発現への影響を検討した。アンドロゲン感受性LNCaP細胞から樹立したアンドロゲン低感受性の亜株E9, F10および不応性の亜株AIDLと、市販されている正常ヒト前立腺間質細胞PrSCもしくは前立腺癌患者の針生検組織から初代培養して得られた線維芽細胞pcPrF-M5とのin vitro共培養実験を施行した。 LNCaP細胞に比較して、E9, F10細胞では癌抑制遺伝子 (TP53, CDK2A, NKX3-1, PTEN, GSTP1) mRNA発現に有意な差を認めなかった。一方、AIDL細胞ではTP53, CDK2A, NKX3-1, GSTP1 mRNA発現に加えて、接着因子CDH2 mRNA発現が有意に高い結果となった。 LNCaP細胞は、pcPrF-M5との共培養によりNKX3-1 mRNA発現の有意な低下、GSTP1 mRNA発現の有意な上昇、さらにCDH2 mRNA発現が有意に上昇した。E9細胞は、PrSCとの共培養によりGSTP1 mRNA発現が有意に低下したものの、pcPrF-M5と共培養しても有意な遺伝子発現変化は認められなかった。F10細胞は、pcPrF-M5との共培養によりGSTP1 mRNA発現が有意に低下した。AIDL細胞は、PrSCとの共培養によりGSTP1 mRNA発現が有意に低下し、pcPrF-M5との共培養によりNKX3-1 mRNA発現が有意に上昇した。 以上の結果より、癌細胞の性状の違いが線維芽細胞からのパラクライン刺激への反応性に影響していることを見出した。興味深いことに、アンドロゲン感受性が高い、つまり高分化な前立腺癌細胞はactiveな線維芽細胞からのパラクライン刺激により分化転換する可能性が示唆された。
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