研究課題/領域番号 |
19K09689
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野々村 祝夫 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (30263263)
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研究分担者 |
松下 慎 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (40824785)
藤田 和利 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (50636181)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 前立腺癌 / 発癌 / 高脂肪食 / サイトカイン / 免疫細胞 / 炎症 / 肥満 / メトフォルミン |
研究実績の概要 |
前立腺癌患者の末梢血中の単球分画あるいは前立腺局所におけるマクロファージの浸潤などが前立腺発癌と相関を認めることから、マウス前立腺発癌モデルを用いて、発癌過程における局所の免疫担当細胞の挙動を確認した。前立腺特異的なPTEN knockoutマウスでは、発癌過程で局所の炎症が生じ、特に自然免疫系の細胞浸潤が著明に増加していた。また前立腺癌の発生には食事など環境因子の影響が大きいと言われているが、前記のマウスモデルを用いて、高脂肪食や糖尿病治療薬であるメトフォルミンの影響を解析した。その結果、高脂肪食によって前立腺発癌が促進され、それに伴って局所の炎症所見も増強した。特に高脂肪食を投与したマウス前立腺では、MDSC(myeloid-derived suppressor cell)の増加やM2/M1マクロファージ比が上昇した。さらに、組織中の遺伝子発現についてマイクロアレイ解析を行った結果、Il1b, Il6, Il13などのサイトカイン遺伝子の発現増加を認めた。抗炎症薬であるセレコキシブの同時投与によって、前立腺組織内に浸潤するMDSCやM2/M1マクロファージ比の低下が認められた。さらに、セレコキシブの投与は、サイトカインの上記サイトカインの発現も抑制した。これらの事は、高脂肪食によって前立腺局所に自然免疫系の炎症細胞浸潤が起こり、これらの細胞によるサイトカインの産生・分泌により発癌過程が促進されると考えられた。また、メトフォルミンの投与では高脂肪食によって誘導されたMDSCの浸潤が抑制され、前立腺発癌も抑制された。ヒトの前立腺癌手術標本を用いて、上記サイトカインの一つであるIl6のシグナル伝達系の下流に存在するSTAT3のリン酸化を免疫組織染色にて調べたところ、肥満患者の前立腺で有意にSTAT3のリン酸化が更新していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前立腺発癌過程を遺伝子改変マウスを用いて解析するという発想の中で、特に環境因子として最も重要な食事の影響を調べたが、これまでの研究結果を裏付けるように、高脂肪食によって局所の炎症所見の亢進とそれに伴うサイトカインの増加が認められ、ヒトの前立腺全摘標本でもサイトカインシグナルの増強を確認するところまで進んだ。これらはすでに論文化にまで至っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、1年が終わり2年目に入るが、本年度以降は、抗糖尿病薬の前立腺発癌に対する影響の解析を予定している。欧米において、糖尿病治療薬であるメトフォルミンが前立腺の発癌抑制に有効であるという疫学的研究結果が報告されており、我々の研究結果でもメトフォルミンはマウスの前立腺発癌を抑制し、前立腺局所へのMDSCの浸潤を抑制した。しかし、そのメカニズムについてはいまだ不明な点が多く、次の課題として、なぜメトフォルミンの投与で免疫系細胞の浸潤が修飾を受けるのかを調べる予定である。 さらに、最近、腸内細菌叢が様々な病態と関連していることは示唆されているが、腸内細菌叢は食事の影響を非常に強く受けるので、高脂肪食によってこれらがどう変化するかを調べることが次のステップである。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行金額が異なった。
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