研究課題
これまでの研究で、PTEN knockoutマウスに高脂肪食を与えることで、前立腺癌の進展が促進されることを明らかにしたが、そこには腫瘍内に浸潤したマクロファージによるサイトカイン、特にインターロイキン6(Il6)が関与する事も明らかにした。同マウスモデルにおいて、セレコキシブの投与によって、高脂肪食の腫瘍増殖促進効果が打ち消されることもこれまでの研究で明らかにしていたが、Il6経路に直接作用しているのかどうか不明であった。その後の研究により、抗Il6受容体抗体によってこれらの効果が消失する事を明らかとし、高脂肪食投与による前立腺癌増殖促進がIl6経路を介していることを直接的に証明した。また、アラバマ大学との共同研究では、肥満(高BMI)前立腺癌患者の前立腺組織には、正常BMIの前立腺癌患者と比較して腫瘍浸潤マクロファージやMDSC(Myeloid-derived suppressor cell)が増加し、リン酸化STAT3も増加していることを明らかにした。高脂肪食の摂取によってなぜ炎症が起こるのかを探るために、腸内細菌叢に着目した。PTEN knockoutマウスでは高脂肪食投与で前立腺癌の増殖は促進され、その重量は増えるが、抗生剤(アンピシリン、バンコマイシン、メトロニダゾール、ネオマイシンのカクテル)を同時に投与すると、高脂肪食による増殖促進効果が消失し、前立腺癌細胞におけるKi-67 indexも低下した。さらにcDNA microarray解析により、Igf1遺伝子の発現低下が見られた。Igf1の産生を促進する、腸内細菌の代謝産物としてshort chain fatty acid (SCFA)に着目した。SCFAはIgf1産生を介して、骨形成を促進する等の報告がある。現在、SCFA直接投与によるマウス前立腺癌の変化を調べている。
2: おおむね順調に進展している
PTEN knockoutマウスにおける前立腺発癌を用いて、このモデルにおけるIL6経路の活性化を証明し、炎症と前立腺発癌、癌の増殖促進の関係を明らかにした。さらに、高脂肪食が促進するメカニズムとして、調査委細菌の代謝産物であるshort chain fatty acid (SCFA)を介したIGF1産生が重要である事を明らかにした。これらの研究成果は前立腺発癌、前立腺癌の増殖におけるサイトカイン、免疫細胞、腸内細菌叢が相互に関連していることを示した新知見であり、順調に研究は進んでいると思われる。
前立腺発癌の促進に関わる腸内細菌叢を調べ、特定の菌種を同定できれば、前立腺癌の予防に繋がると考える。具体的には、抗生剤カクテルの投与によってこのモデルマウスの腸内細菌叢にどのような変化生じるかを調べる予定である。さらに、高脂肪食投与によって変化するマウス便中の細菌叢を16SrRNAを次世代シーケンス(NGS)にて調べることを計画している。こうして同定された腸内細菌がSCFAを産生するかどうかは非常に興味深いと考えている。さらに、ヒトにおける腸内細菌叢の検索も計画している。すなわち、前立腺生検を受ける患者から生検時に便を採取し、やはり16SrRNAをNGSにて調べる予定である。
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行金額が異なった。
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