研究実績の概要 |
Birt-Hogg-Dube(BHD)症候群の原因遺伝子として同定されたfolliculin (FLCN)欠失による腎の腫瘍化機構を調べるために細胞や動物モデルを用いた分子生物学的手法を用いた解析と、シングルセル発現解析などの臨床検体を用いたオミクス解析を行いました。分子生物学的手法については、Free style293細胞を用いて、FLCN結合タンパク質を網羅的に解析し、候補結合タンパク質については、免疫沈降や、ノックアウトマウスを用いた生理的意義の解析を進めております。臨床検体を用いたオミクス解析については、BHD症候群に発生した腎癌2検体(嫌色素性腎細胞癌とHybrid oncocytic chromophobe tumor(HOCT))、淡明細胞型腎癌6検体、HLRCC腎癌2検体、正常腎臓2検体の合計12検体から採取した合計108,342個のシングルセル発現解析を行いました。またBHD腎癌16検体と正常腎組織5検体についてはバルク組織からのRNAシーケンスを行い、シングルセル発現解析から得られた結果の検証を行いました。BHD腎癌は集合管の介在細胞と似た発現パターンを示し、集合管の介在細胞の分化に重要なFOXI1やその下流遺伝子の高発現を認めました。FOXI1は集合管介在細胞の分化に重要な遺伝子で、BHD腎癌はFOXI1の高発現により集合管介在細胞に似た発現パターンを獲得していると考えられました。また、BHD腎癌はL1CAMを発現する細胞と、FOXI1を発現する細胞に分かれ、転写レベルでの腫瘍内不均一性を有することが明らかとなりました。さらに嫌色素性腎細胞癌とHybrid oncocytic chromophobe tumor(HOCT)で発現の違う遺伝子(DEGs)として、SLC4A4, HERC1, PLAAT4, MIFなどを同定し、前述のバルクRNAシーケンスデータを用いてこれら結果を検証致しました。今後、これらの発見を基に腎癌治療介入の精密化を行っていきます。
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