研究課題
アンジオテンシンII(AngII)は、AT1レセプターに結合してアンドロゲン非依存的に前立腺癌細胞の増殖を促進し、降圧剤のAT1レセプターブロッカー(ARB)が前立腺癌細胞の増殖を抑制することを、私達は証明した。もう一つのAngIIレセプターであるAngIIレセプター2(AT2R)は、心臓血管系細胞においてAT1Rを介した細胞増殖などの作用と拮抗すると報告されている。前立腺癌細胞において、AT2Rリガンドが前立腺癌細胞の増殖を抑制することをin vitroおよびin vivoで確認した。一方、私達はatypical protein kinase C(aPKC)が前立腺癌の進展に関わり、さらに最近の研究で、このaPKCが正常前立腺細胞の癌化に関与することが分かった。この研究ではAT2Rリガンドが前立腺癌の発生を抑える機序として、aPKCにどのように関与しているかを解析する。我々が行った前立腺癌細胞を用いた研究において、AngII刺激した前立腺癌からIL6 やMCP-1などの炎症性サイトカインが分泌されていることを確認している。興味深いことに、前立腺癌細胞からのIL6分泌はaPKCが関与していることが分かった。そこで、今後はAngII 刺激によるIL6分泌にaPKCがどのようにかかわっているかを、前立腺癌細胞を用いて行っていくことにしている。さらに、最近、レニンの前駆体であるproRenin受容体((p)RR)が多くの癌腫で発現していることが分かってきた。(p)RRはアンジオテンシン2受容体(ATIR)と相互作用してPI3KやMAPKなどの増殖系シグナル伝達系を活性化している。レニンが直接、細胞膜表面にある(p)RRに結合して、細胞内シグナルを介してのaPKCへの関与やIL6分泌について解析する予定である。
3: やや遅れている
臨床試験や企業治験に携わる時間が多かったため、実験を進めるのに十分な時間が取れなかった。また、研究室での細胞培養の環境が、工事などで影響を受けたため、実験を再開するのに時間を要した。
前立腺癌細胞は4種類をそろえ、培養条件も整ったので、今後は各細胞を用いて下記の実験を行う予定である。(1)前立腺癌細胞をAngIIやレニンで刺激して、(p)RRやaPKCの発現変化をqPCRやウェスタンブロットで確認する。(2)ヒト前立腺癌組織における(p)RRとAT1Rとの発現に相関があるかどうか、qPCRで解析し、臨床データとの相関についても解析する。(3)抗ヒト(p)RR抗体を入手して、前立腺癌細胞を刺激、IL6分泌やaPKC発現に対する影響があるかどうかを調べる。
臨床試験や企業治験に携わる時間が多かったため、実験を進めるのに十分な時間が取れなかった。また、研究室での細胞培養の環境が、工事などで影響を受けたため、実験を再開するのに時間を要した。前述した理由のため、費用を要した実験を行えなかった。今後は、実験環境が整ったので、フルタイムの実験助手ともに研究を推進できる予定である。さらに、今まで蓄積したアーカイブのヒト前立腺癌組織から抽出したcDNAを入手できたので、qPCRなどのデータも得られる。ただし、臨床データに関しては時間を要するため、最終年度に持ち越す可能性が高い。
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Adv Ther
巻: 37 ページ: 512-526.
Ann Onco
巻: 30 ページ: 1813-1820