研究課題/領域番号 |
19K09699
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
諏佐 崇生 帝京大学, 医学部, 講師 (20445852)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | LNCaP / AR / ビタミンD3 / メチル化 |
研究実績の概要 |
「D3-ARクロストークによるMTs遺伝子群の転写抑制機序の解明」と「DHTとD3による拮抗的なHOXCs遺伝子群の転写制御機序の解明」を研究目的として研究を展開した。MTs遺伝子群はアンドロゲンとビタミンD3の両ホルモンにより遺伝子発現が抑制されるが、アンドロゲンのARを介した転写抑制にはゲノムDNAのメチル化を伴っているが、活性化ビタミンD3のVDRを介した転写抑制にはゲノムDNAのメチル化は関与しないことが明らかとなった。MTs遺伝子の抑制が前立腺癌の増殖に及ぼす影響や、またD3-ARクロストークの解析は今後の課題となる。一方、HOXCs遺伝子群の1つであるHOXC9の遺伝子発現がアンドロゲンによる前立腺癌細胞の増殖、ビタミンD3による抗増殖作用の一端を担うことが示唆される研究結果が得られてきたことから、本因子の機能解析を主軸として展開した。アンドロゲン存在下でもHOXC9が発現し続けるHOXC9 stable発現細胞を作出し、本細胞を用いた種々の解析の結果、HOXC9はアンドロゲンで活性化したARの転写複合体に相互作用し、ARの標的DNA配列への結合を一部で阻害することが明らかとなった。即ち、HOXC9はアンドロゲン活性に阻害作用を発揮するため、前立腺癌ではこの阻害因子を抑制することで増殖を可能とする機構が備わっていることが考えられた。一方、ビタミンD3はこの阻害因子HOXC9の発現を誘導することでアンドロゲンシグナルを阻害し、前立腺癌への抗増殖作用を発揮しようとしていると考えられた。これらの研究結果から、ビタミンD3が前立腺癌抗増殖作用を規定する標的遺伝子の一つとしてHOXC9を同定し、また本因子はエピゲノム修飾を伴ったアンドロゲンの標的でもあることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の展開から、アンドロゲンによりゲノムDNAのメチル化を介して発現が抑制され、逆に活性化ビタミンD3によって発現が誘導される転写因子HOXC9が、ビタミンD3による前立腺癌の抗増殖作用を規定する一因子であることを明らかにした。ヒト前立腺癌細胞のLNCaP細胞とVCaP細胞に共通してアンドロゲン依存的にHOXC9発現は強く抑制され、これには周辺のゲノムDNAのメチル化が関与していると考えられた。野生型細胞を用いたルシフェラーゼアッセイやHOXC9のstable発現細胞の遺伝子発現解析やChIP解析などから、アンドロゲン刺激下でもHOXC9の発現を維持させるとARと相互作用し、ARの標的遺伝子配列への結合を一部で阻害することが明らかとなり、アンドロゲン依存的な細胞増殖にも影響を及ぼすことが明らかとなった。一方、ビタミンD3は本遺伝子の発現を誘導するが、わずかなアンドロゲン存在下においてはそれによる抑制が優位となり、アンドロゲン活性の阻害因子であるHOXC9の発現を誘導することが出来なかった。つまり前立腺癌は、アンドロゲン依存的な増殖能の獲得の一要因としてHOXC9の発現をゲノムDNAのメチル化で抑制するのではないかと考えられ、本因子の発現誘導系が新たな前立腺癌の抗増殖機序として利用できる可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の展開として、ゲノム編集を利用したHOXC9発現系の確立が新規な前立腺癌の抗増殖機序となりうるか、新規研究課題として解析を進めていく予定である。また、本研究ではHOXC9の作用は培養細胞によるin vitroでしか検討していない。今後、培養細胞株のヌードマウスへの移植実験を行うことで、より生体内に近い環境でもHOXC9が前立腺癌の抗増殖作用を発揮するか検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策による在宅勤務、また所属大学の教育業務のオンライン化に対する対応などに時間が割かれ、従来通りの研究活動が困難となったため。
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