「D3-ARクロストークによるMTs遺伝子群の転写抑制機序の解明」と「DHTとD3による拮抗的なHOXCs遺伝子群の転写制御機序の解明」を研究目的として研究を展開したが、HOXCs遺伝子群の1つであるHOXC9の遺伝子発現がアンドロゲンによる前立腺癌細胞の増殖、ビタミンD3による抗増殖作用の一端を担うことが示唆される研究結果が得られてきたことから、本因子の機能解析を主軸として本研究を展開した。HOXC9を中心としたHOXC遺伝子座にはアンドロゲンの作用でゲノムDNAのメチル化を介した転写抑制機構が存在していると考えられ、網羅的DNAメチル化解析の結果、そのメチル化候補領域を同定した。さらに、アンドロゲン存在下でもHOXC9が発現し続けるHOXC9 stable発現細胞を作出し、本細胞を用いた種々の解析の結果、HOXC9はアンドロゲンで活性化したARの転写複合体に相互作用し、ARの標的DNA配列への結合を一部で阻害することが明らかとなった。これには、ホルモン抵抗性に関与するARスプライッシングバリアントに対しても有効であると考えられる実験結果も得られている。即ち、HOXC9はアンドロゲン活性に阻害作用を発揮するため、前立腺癌ではこの阻害因子を抑制することで増殖を可能とする機構が備わっていることが考えられた。一方、ビタミンD3はこの阻害因子HOXC9の発現を誘導することでアンドロゲンシグナルを阻害し、前立腺癌への抗増殖作用を発揮しようとしていると考えられた。これらの研究結果から、ビタミンD3が前立腺癌抗増殖作用を規定する標的遺伝子の一つとしてHOXC9を同定し、また本因子はエピゲノム修飾を伴ったアンドロゲンの標的でもあることが明らかとなった。
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