研究課題/領域番号 |
19K09701
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
小林 秀行 東邦大学, 医学部, 准教授 (10408875)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 精索静脈瘤 / azoospermia / Johnsen score / artificial intelligence / AutoML / Google Cloud / machine learning / pathology |
研究実績の概要 |
精索静脈瘤は静脈血が腎静脈から内精静脈へ逆流するために、蔓状静脈叢が怒張およびうっ血をきたした状態であり、多くは左側に発生する。造精機能障害の原因は静脈血のうっ滞により陰嚢内温度の上昇が主たる原因と考えられている。しかし、不妊を起こすメカニズムに関しては明確ではなく、温度上昇以外に、酸化ストレスの上昇、精子DNAダメージなどが関連すると指摘されている。また、精巣には特有の熱ショックタンパク質が発現しており、ストレスに対する代償機構があるとされている。さらに最近では、精索静脈瘤における精子ミトコンドリアの構造や機能異常が、酸化ストレスの上昇や精子運動能の減弱に関与することが示唆されている。そのため、精索静脈瘤によって、精子ミトコンドリアのゲノムに突然変異が引き起こされ、精子数の減少や運動能の低下が起こることが考えられる。研究1年目は、精索静脈瘤患者の手術前後の精液検体の採取に重点を置いていた。研究2年目は、コロナ禍の影響で、2020年4月と5月における精索静脈瘤手術は中止となり、その後も思うように検体は集まらなかった。そのため、重度の男性不妊症における精巣組織の病理検査をAIによって分類する研究を開始した。2010年1月から2019年12月に渡る無精子症患者で精巣内精子採取術(TESE)を施行した275例に対して精巣病理の写真を撮影した。総数7000枚を超えた。Johnsen scoreと呼ばれる、精巣内の精子の発育具合いを数値化する指標にて、画像の特徴を4つのグループに分けた。グループ1:セルトリ細胞または精粗細胞のみ。グループ2:精母細胞まで含まれている。グループ3:精子細胞まで含まれている。グループ4:精子が含まれている。Google Cloud AutoML Visionを用いて、正診率が80%を超えるJohnsen scoreのAI画像認識モデルが完成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響で2020年4月と5月における精索静脈瘤手術は中止となった。その後も手術件数は少ないままである。そのため、重度の男性不妊症の精巣組織の病理写真を撮影し、AIによる画像認識モデルの構築に対する研究を開始した。こちらは順調で、AIモデルが完成した。正診率も80%を超えており良好な成績である。研究成果は論文にまとめて、英国科学誌の「Scientific Reports」へ投稿した。編集者から修正の返事を受け取り、再投稿の準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響で、2020年4月と5月に精索静脈瘤手術は中止となり、その後も思うように当初の研究に必要な精索静脈瘤の手術前後の精液検体は入手できない状況である。そのため、重度の男性不妊症の精巣組織の病理写真を撮影し、AIによる画像認識モデルの構築の研究を開始した。2010年1月から2019年12月までに閉塞性無精子症または非閉塞性無精子症でTESEを施行した275例を対象とした。275例中264症例の病理標本を用いた。Johnsen score 1~3をラベル1、Johnsen score 4~5をラベル2、Johnsen score 6~7をラベル3、Johnsen score 8~10をラベル4に分けた。ラベル1で2486枚、ラベル2で1614枚、ラベル3で2019枚、ラベル4で1036枚の合計7115枚の病理写真を撮影した。撮影した画像は教師用画像データとして、Google Cloud AutoML Visionへアップロードを行なった。Google Cloud AutoML Visionは、高度なAI知識は不要で簡単にAIモデルを構築することができるプラットフォームである。今回作成した精巣病理AIモデルでは、正診率は82.6%であった。さらに今回の研究では、正診率を上げるために1枚の病理画像の中で、Johnsen scoreを判断する部位の切り抜きを行なった。ラベル1で1483枚、ラベル2で3437枚、ラベル3で3523枚、ラベル4で1439枚の合計9882枚の病理写真を撮影した。これまでの研究と同様にCloud AutoML Visionへアップロードを行なった。精巣病理AIモデルを構築し、正診率は99.5%であった。コロナ禍の影響で、男性不妊症とAIに関連する研究に変更した。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、精索静脈瘤手術が中止となり検体採取ができなかった。そのため予定していた研究が行なえず次年度使用額が生じた。しかし、精巣組織のAIによる画像認識モデルの研究は順調に進んでおり、2020年度の未使用額と2021年度の配分額を合わせた金額に関して、論文掲載費用、AI研究に必要なソフトであるPrediction oneの購入、AI研究に必要なパソコンの購入を予定している。また、AIモデルを稼働させるためにGoogle Cloudに対して支払う使用料も予定している。
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