研究課題
これまでに、間質性膀胱炎に伴う膀胱痛や知覚過敏にTRP(transient receptor potential)チャネル(特にTRPA1とTRPM2)が関与することを示した。また、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に効率よく遺伝子導入できる独自の技術を有しており、前立腺癌の遺伝子治療にも既に臨床応用を行っている。そこで、この技術を生かしてTRP受容体を発現する新規HSV-1を作製し、間質性膀胱炎に対する極めて新規性の高い治療法を開発することを着想した。具体的には、①HSV-1が逆行性に神経軸索から後根神経節まで到達して潜伏感染し、そこで非機能性のTRP受容体遺伝子を発現させることにより、②膀胱の支配神経領域でTRP受容体を持続的に抑制することをモデルで検証する。本年度は、独自のT-BACシステムを利用した「鎮痛遺伝子発現型ウイルスの作製システム」を使用して、新規ウイルスを作製した。従来、遺伝子組み込みHSV-1を作製するには、約2年の歳月を必要としていた。しかし、本方法を用いることにより、短期間で遺伝子組換えHSV-1を作製でき、開発期間の大幅な短縮とスクリーニングによる目標とするウイルスの選定が可能となった。具体的には、CMVプロモータ下にTRP遺伝子を短時間に強く発現するウイルス、および、LAT(latent)プロモータ下に上記の遺伝子を潜伏感染状態でも発現し続けるウイルスを作製し、それぞれの非機能性ウイルスも作製した。
3: やや遅れている
一部のウイルスの作製に成功したが、非機能性のウイルス作製は次年度に繰り越すこととした。
予定通りのウイルスを作製させ、炎症性膀胱痛モデルの検討を行う。炎症性膀胱痛モデルとしては、広く一般的に用いられているシクロフォスファミド(CYP)誘発膀胱炎ラットモデルと、Lipopolysaccharide(LPS)誘発性膀胱炎マウスモデルの2つを用いる。予備実験として、我々は、WTマウスの膀胱内にLPSを注入すると24-48時間後に頻尿が誘発され、24時間後までLicking(下腹部舐め行動)と呼ばれる膀胱痛様行動が持続することをまず確認した。一方、TRPA1KOマウスの膀胱内にLPSを注入すると、同時期に頻尿は誘発されず、膀胱痛様行動は早期に改善することを確認した。さらに、マウスの足底にエンケファリンを発現するT1-hPPEを直接投与した7日後に同部位に疼痛誘発物質であるホルマリンを注射し、逃避行動を示す時間を測定するホルマリンテストを施行した。CMVプロモータ下にエンケファリンを発現するT1-hPPE投与群は、陰性コントロールであるT-01投与群に対し、有意に鎮痛効果を示した。今回は、2つの炎症性膀胱痛モデルに対する潜伏型ウイルス治療の効果、また、ホルマリンテストによるウイルスの鎮痛効果を検証する。具体的には、作製した新規ウイルスを膀胱壁内に注入し、潜伏感染後に以下の検証を行う。1.CYP誘発膀胱炎ラットモデルでのウイルス治療の予防効果の検討2.LPS誘発膀胱炎マウスモデルでのウイルス治療の予防効果の検討3.ホルマリンテストによるウイルス治療効果の検討
一部のウイルス作製が次年度に繰り越す状況になっており、翌年度分と合わせて、ウイルス作製を行う。そのための物品費に使用する。
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