これまでに、間質性膀胱炎に伴う膀胱痛や知覚過敏にTRP(transient receptor potential)チャネル(特にTRPA1とTRPM2)が関与することを示した。また、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に効率よく遺伝子導入できる独自の技術を有しており、前立腺癌の遺伝子治療にも既に臨床応用を行っている。そこで、この技術を生かしてTRP受容体を発現する新規HSV-1を作製し、間質性膀胱炎に対する極めて新規性の高い治療法を開発することを着想した。具体的には、①HSV-1が逆行性に神経軸索から後根神経節まで到達して潜伏感染し、そこで非機能性のTRP受容体遺伝子を発現させることにより、②膀胱の支配神経領域でTRP受容体を持続的に抑制することをモデルで検証する。 まず、独自のT-BACシステムを利用した「鎮痛遺伝子発現型ウイルスの作製システム」を使用して、新規ウイルスの作製に成功した。すなわち、CMVプロモータ下にTRP遺伝子を短時間に強く発現するウイルス、および、LAT(latent)プロモータ下に上記の遺伝子を潜伏感染状態でも発現し続けるウイルス、それぞれの非機能性ウイルスも作製することに成功した。次に、炎症性膀胱痛モデルでの検討を行った。 まず、WTマウスの膀胱内にLPSを注入すると24-48時間後に頻尿が誘発され、24時間後までLicking(下腹部舐め行動)と呼ばれる膀胱痛様行動が持続することを確認した。次に、マウスの足底に疼痛誘発物質であるホルマリンを注射し、逃避行動を示す時間を測定するホルマリンテストでの検討も行った。新規ウイルスを直接投与した7日後にマウス足底にホルマリンを注射して逃避行動の解析を行った。最終年度もホルマリンテストでの解析を引き続き行っているが、本研究期間では外部に発表する結果までは至っておらず、さらなる追加研究が必要である。
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