研究課題
体内受精であるほ乳類に特徴的な受精能獲得において、精子膜からのコレステロールの流出がその契機になることは周知の事実であるが、その生理的な調節メカニズムは不明である。申請者らはこれまでに、精嚢分泌タンパク質が積極的に精子膜のコレステロール量を保持することを明らかにしている。この作用が異所的な受精能獲得を抑制すると考えるが、その分子メカニズムについて全貌は明らかになっていない。本研究では、精嚢分泌タンパク質による精子膜ステロールレベル調節の制御を介した精子受精能獲得の調節機構解明を最終目標とする。具体的には主にマウスを対象とし、(1)精嚢分泌タンパク質と精子最外層グリコカリックスの相互作用、(2)精嚢分泌タンパク質の精子からの除去機構、(3)精嚢分泌タンパク質以外の生理的な精子膜ステロールレベル調節因子の探索を行い、その生理的作用を明らかにする。R1年度は(1)について、マウス精巣上体尾部精子からDEFB22を回収する目的でペプチド抗体の作成を行い、抗体の特異性についてウエスタンブロッティングで評価を行った。この抗体でDEFB22の検出が可能になったので、これを用いてマウス精巣上体尾部精子からのDEFB22抽出方法についての検討を行った。現在のところ、検討を行った可溶化方法では安定した結果が得られていない。今回作成したペプチド抗体は抗原をコアタンパク質に設定したため、間接蛍光抗体法での観察には用いることができないことを確認した。
4: 遅れている
DEFB22の糖衣構造の解明について、計画では精子膜画分からレクチンアレイで候補を挙げる予定であったが、これでは糖脂質由来の糖鎖も含まれてしまうと考え、DEFB22の糖鎖を直接決定する方法に修正した。まず、DEFB22を精製するため、抗体を作成して抽出精製を試みることにしたが、安定して可溶化が難しく、未だ成功していない。年度末にかけて、研究に専念できる時期に新型コロナウイルス感染症により研究活動が中断され、更なる検討が行えていない。卵管の器官培養については上記検討に時間を取られ、進めることができなかった。
DEFB22の安定した可溶化が困難なことが分かったので、当初の予定通りに精巣上体精子膜画分を調整し、その糖鎖を網羅的に解析する方法に戻す。解析方法は蛍光ラベルとHPLCによるプロファイル分析、またはレクチンアレイを受託で行う予定である。これにより重要な糖鎖を決定し、次にこの候補糖鎖とSVS2との結合を水晶発振子マイクロバランス法および間接蛍光抗体法を用いた精子染色の候補糖鎖による競合阻害実験にて確認する。更に、DEFB22ノックアウトマウスを入手するか、iGONAD法とCRISPER-Cas9によるゲノム編集によりノックダウンを行い、DEFB22欠損マウス精子のグリコカリックス構造を確認すると共に、SVS2の精子への結合の有無を確認する。マウスUTJ上皮の器官培養あるいは卵管上皮培養細胞を用いて精子の結合と結合へのSVS2の関与、および離脱精子からのSVS2、DEFB22およびコレステロールの除去について、各分子の蛍光物質による直接ラベル、間接蛍光抗体法あるいはウエスタンブロッティングにより検討する。また、SVS2由来ペプチドを合成し、上記アッセイを行って、SVS2のステロールレベル調節部位を特定する。さらに、精子膜ステロールレベル調節因子の探索として、精子離脱前後の培地あるいは卵管上皮、培養細胞抽出物を比較することで候補を選定し、同定を試みる。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 20(18) ページ: 4557
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細胞
巻: 51(5) ページ: 253-255