研究課題/領域番号 |
19K09729
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
林 哲太郎 広島大学, 医系科学研究科(医), 助教 (60612835)
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研究分担者 |
松原 昭郎 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (10239064) [辞退]
亭島 淳 広島大学, 医系科学研究科(医), 准教授 (20397962)
安井 弥 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (40191118)
井上 省吾 広島大学, 病院(医), 講師 (90457177)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 薬剤耐性膀胱がん / PD-1抗体 / NOTCHシグナル |
研究実績の概要 |
薬剤耐性の転移性膀胱がんは予後不良であり、私たちは抗がん剤耐性膀胱がんでNOTCH2が高発現するという研究結果と、NOTCH2高発現膀胱がんはがん微小環境への免疫細胞浸潤亢進に関わらずがん免疫寛容を獲得するという論文報告から、マウス膀胱がんに対する抗NOTCH2抗体と抗PD-1抗体併用療法の効果を確認することを計画している。まず、抗がん剤耐性膀胱がん細胞株と抗がん剤感受性膀胱がん細胞株の遺伝子発現を比較したところ、抗がん剤耐性株はNOTCH2の発現上昇とともにNESTINやCD90などのがん幹細胞性の維持に関与する遺伝子の高発現が確認された。一方で、NOTCH2をknockdownするとNESTINやCD90、NANOG、SOX2の発現低下が確認され、NOCTH2はがん幹細胞性の維持に重要な役割を果たしていることが確認された。次に抗がん剤耐性膀胱がん細胞株と抗がん剤感受性膀胱がん細胞株でがん免疫に関わるPD-L1の発現を比較したところ、抗がん剤耐性株でPD-L1の発現が上昇していた。これらの結果は、NOTCH2はがん幹細胞性の維持を介して抗がん剤不応性に関与しており、抗NOTCH2抗体と抗PD-1抗体併用療法の根拠となる実験結果であった。また、NOTCH2の下流遺伝子となるHES/HEY family 遺伝子を調べたところ、NOTCH2の発現抑制と発現上昇で発現変化があったのはHEY1/HEY2/HEYLで、NOTCH2過剰発現株で高発現するHEY1の発現抑制を行うと、p21の発現上昇を伴う細胞増殖の低下とNESTINの発現低下に伴う足場非依存性での細胞増殖の低下が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、NOTCH2高発現のゲムシタビン耐性膀胱がん細胞株とその親株を用い、in vitroでの抗NOTCH2抗体による細胞増殖能と浸潤能を評価しており、抗NOTCH2抗体との共培養で、EMTマーカーの変化や細胞周期マーカーの変化を調べている。さらに、多数の臨床検体で、NOTCH2の細胞膜染色症例、細胞質染色症例、核染色症例と、CD8陽性リンパ球の腫瘍内浸潤症例、間質浸潤症例、浸潤を認めない症例に分類する。NOCTH2発現とPD-L1発現、リンパ球浸潤の関係性、臨床病理学的因子との関連を明らかにしている。しかし、一方で、マウス膀胱がんでの抗Notch2抗体と抗Pd-1抗体の併用療法でマウス膀胱がんのサイズの変化と転移の有無、マウスの予後を評価する実験に関しては、現時点で行えておらず、早急に開始する必要がある。現在、以前使用したマウス膀胱がんを用いてNotch2、PD-L1、CD8発現評価とその病理学的検討を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
TCGAの筋層浸潤性膀胱癌のデータが更新され、さらに多くの症例でもNOTCH2の高発現がbasal subtype の膀胱癌で確認されている。Basal subtypeは予後不良であり、リンパ球浸潤が多く、上皮間葉移行や未分化性の維持を特徴とし、有効な治療法は限られている現実がある。私たちは、免疫染色でbasal subtypeのマーカーであるcytokeratine 5/6陽性である症例を抽出し、NOTCH2受容体とligandsのJag1, Jag2, DLL1, DLL3, DLL4の発現解析、CD8陽性T細胞の腫瘍内浸潤の有無、PD-L1発現をヒト検体とともにマウス検体で検討して、より効果が望める症例の抽出と、適切な動物治療モデルでの検証を予定している。さらにBasal subtypeではこれまで私たちが研究してきたEGFRやDSC2/3の高発現が特徴的であり、NOTCH2発現との相関から、NOTCH2を中心としてBasal subtypeでのがん微小環境を明らかにして、分子メカニズムに基づいた抗NOTCH2抗体と抗PD-1抗体併用療法の確立を目指す。
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