研究課題/領域番号 |
19K09744
|
研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
伊藤 敬一 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 泌尿器科学, 教授 (90260091)
|
研究分担者 |
松尾 洋孝 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 分子生体制御学, 准教授 (00528292)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 腎細胞癌 / 包括的高感度転写産物プロファイリング / 次世代シークエンサー / バイオマーカー / 腫瘍マーカー / リアルタイムPCR / TCGA |
研究実績の概要 |
本研究では包括的高感度転写産物プロファイリング(High Coverage Expression Profiling:HiCEP)法を活用し、かつ次世代シークエンサーを組み合わせた新規の高感度解析法(NGS-HiCEP)により、腎細胞癌に特異的な分子を探索することを目指している。このNGS-HiCEPを用い腎細胞癌組織の遺伝子発現データベースを構築することができた。腎細胞癌6症例の癌部と肉眼的非癌部の遺伝子発現の違いを比較し、非癌部と比べて癌部において5倍以上発現が増加している12遺伝子を同定することができた。これらは既知の8遺伝子に加え、腎癌との関連が報告されていない4つの新規候補遺伝子であった。今後は様々な条件下(癌組織における低悪性度と高悪性度の比較など)で遺伝子発現量を比較し、新たな候補遺伝子を同定することも可能である。この12遺伝子において、別の腎細胞癌症例のサンプルを対象としたリアルタイムPCRによる再現実験を実施したところ、癌部においてすべての遺伝子の発現増加が確認できた。さらにTCGA (The Cancer Genome Atlas)に登録されているデータを用いて、候補遺伝子の発現量と生命予後との関連について検討を行った。12個の候補遺伝子について、TCGAの淡明型腎細胞癌のRNAシークエンスのデータセットを用いKaplan-Meier解析を行ったところ、発現量と生存について有意な相関を認めたのは、SCARB1(P = 0.037)とGene C(P = 0.017)の2つであった。本研究においてNGS-HiCEP法が腎癌特異的なバイオマーカーの候補を同定する方法として効率的で優れた手法であることが証明された。NGS-HiCEP法を利用して様々な解析を進めるとともに、この新規の手法を世界に先駆けて報告する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HiCEP法を活用し、かつ次世代シークエンサーを組み合わせた新規の高感度解析法(NGS-HiCEP)により、腎細胞癌組織の遺伝子発現データベースの構築に世界で初めて成功した。癌部と肉眼的非癌部の遺伝子発現の違いを比較し、非癌部と比べて癌部において5倍以上発現が増加している遺伝子を12個同定した。これらの12遺伝子すべてにおいて、別の腎細胞癌症例のサンプルを対象としたリアルタイムPCRによる再現実験を実施し、癌部においてそれらの遺伝子の発現が増加していることが確認できた。さらにTCGA に登録されているデータを用いて、候補遺伝子の発現量と生命予後との関連について検討し、淡明型腎細胞癌のRNAシークエンスのデータセットで検討したところ2つの遺伝子が予後を予測するバイオマーカーの候補であることが分かった。特にNGS-HiCEPは候補遺伝子の同定を効率化した画期的な方法である。この新規の手法の重要性を踏まえて、現在までの実験結果について現在論文作成を行っている。これまでの実験では、非癌部と比べて癌部において5倍以上発現が増加している遺伝子を検討していたが、発現増加のカットオフを4倍とした検討も行っており、新しい知見が得られつつある。このように、腎細胞癌組織及び周辺悲癌部の組織を比較する検討においては順調に結果が得られてきている。今後は癌患者の末梢血検体を用いたNGS-HiCEPの施行を進めていく予定であり、今後の課題である。腎細胞癌の手術検体だけではなく、末梢血検体についてもすでに50例以上の検体の収集がすでにできており、末梢血検体を用いたNGS-HiCEPを開始できる状況はすでに整っている。上述のように、NGS-HiCEPの手法をすでに確立しており、そして手術検体を用いたNGS-HiCEPでは順調に結果が得られており、本プロジェクトはおおむね順調に進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
NGS-HiCEPという新しい手法を用いて腎細胞癌マーカーの候補が同定できることが確認された。実験系が確立されており、腎癌手術検体における検討をさらに進めていく。非癌部と比べて癌部において5倍以上発現が増加している遺伝子について検討し有望な候補遺伝子を同定できた。現在、発現の比率のカットオフを4倍に変えた検討も行っており、さらに新規の遺伝子が同定されてきており、この検討も進めていく。また、癌部と非癌部の比較ではなく、癌部における悪性度の比較により、悪性度の高い癌組織で発現が増加する遺伝子や発現が低下する遺伝子の検討も行っていく予定である。さらに、癌患者の末梢血における検討において、手術検体と同様にNGS-HiCEPを進めていく。末梢血上での遺伝子の変化は癌に反応する末梢血中の細胞上の遺伝子の変化を検出することができると考えられ、今後の検討結果を期待している。さらに、同定した候補分子の生体における役割を検討するために、候補分子に対する抗体を作成し、免疫組織化学染色による腎細胞癌組織における局在解析を行う。また、必要に応じて、細胞レベルでのin vitro発現実験により候補分子の生理学的または病態学的機能を検討する。そして、本技術により検出した腎細胞癌に特異的な候補分子の発現と、症例における病期診断や病理診断、治療効果等の臨床データを対比させ、その関連について解析、検討する。これらにより、腎細胞癌の非侵襲的早期診断技術の開発や再発の早期検知、さらには治療効果の予測や治療有効性の評価に関する情報を提供することができると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も手術検体からのRNAの抽出、末梢血検体からのRNAの抽出を継続して行っていくため試薬の費用が見込まれる。年間30~40症例が見込まれかなりの額になるものと思われる。さらに、末梢血のHiCEP法を進める予定であり、その研究を進める上での消耗品の支出が見込まれる。さらに、候補分子に対する抗体を作成、免疫組織化学染色による腎細胞癌組織における局在解析、必要に応じて、細胞レベルでのin vitro発現実験により候補分子の生理学的または病態学的機能を予定しているため、それらの実験のための抗体、試薬等の購入が必要である。また現在第一報の論文化を進めているため、この論文化の費用も必要と考えている。このように、2021年度には2020年度よりも多くの支出が見込まれるため、2021年度の研究のために費用を残している。
|