研究課題
産科危機的出血による出血性ショックは妊産婦死亡原因の第一位である。早期から輸血が必要だが、日本では分娩の多くが産科一次施設で行われ輸血は困難な場合が多い。本研究では産科危機的出血の病態モデルを作成し赤血球輸血の代替としてHemoglobin Vesicle (HbV)を投与して、急性期の救命効果を検証する。前年度は出血開始時点からHbVを投与することで出血性ショックを回避できることを報告した。今年度は産科危機的出血に陥った後にHbVを投与することで出血性ショックから母体を回復させることが可能か、妊娠末期のウサギを帝王切開後に子宮間膜の動静脈を切断して危機的出血を起こし、以下の検討を行った。出血初期:出血量が100mLに至るまでは、5分毎に出血量と等量の膠質液(ボルベン)を輸液する。出血が100mLに達した時点で平均動脈圧は50mmHg前後でHb濃度は6g/dL程度となり、産科危機的出血の状態に達した。出血後期:①HbV:25%アルブミンの4:1混合液(n=10)、②RBC:血漿の1:1輸血(n=8)、③ボルベン継続(n=7)、いずれも5分毎に出血量と等量投与し、60分後または総出血量が200mLに達した時点で、止血し閉腹する。60分後の平均Hb濃度はHbV群で7g/dL、RBC群で9g/dL、ボルベン群で2g/dLとなった。平均動脈圧はHbV群とRBC群で50mmHgを維持できたが、ボルベン群は次第に低下し60分後には35mmHg前後となった。乳酸値もHbV群とRBC群は3mmol/L程度で維持できたが、ボルベン群は6mmol/Lまで上昇した。止血後6時間以内にボルベン投与では全例死亡したが、HbV群とRBC群の8時間後の生存率はそれぞれ60%と100%であった。以上より、HbVは産科危機的出血の初期治療として、母体を高次施設へ後送するまでの救命に有効と考える。
2: おおむね順調に進展している
HbVを投与することで産科危機的出血を回避できる可能性を見出した。
今後は上記のモデルに羊水塞栓症の病態を加味して、消費性凝固障害モデルに対する人工血液の有効性について検討する。
(理由) 新型コロナウイルス緊急事態宣言による施設閉鎖等の影響で実験試料の作成が滞り、実験の遂行に遅延が発生した。(計画) 次年度は消費性凝固障害モデルに対する検討を行う予定である。
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American Journal of Obstetrics & Gynecology
巻: 224 ページ: 398-398
10.1016/J.AJOG.2020.09.010
循環制御
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