研究課題
生殖補助医療における妊娠成立までの多くのステップのうち、胚移植後のステップでのロスが最も多いことが知られている。これまで、胚移植の成績をあげるために、さまざまな検査、操作が考案され実地利用されてきているが、臨床現場でスクラッチと称される移植前の子宮内膜への機械的意図的損傷は子宮内膜の再生プロセスを惹起させ、理由は不明なままながら、着床率をあげるとの報告がある。ただし、残念なことに大規模研究の不足を主因として、いずれも圧倒的な有意差をもっての効果が証明されたものがなく、着床率は伸び悩んでいる。本研究では、子宮内膜上皮細胞(Ishikawa細胞)、同間質細胞(THEC)、絨毛細胞(JAR)を用いて、in vitro での着床モデルに供して、スクラッチによる細胞へのダメージがもたらす子宮内膜環境への変化について解析を実施してきた。前年度までに、子宮内膜上皮細胞の人為的破砕によって得られる細胞内溶液の添加によって、子宮内膜上皮細胞層への胚モデルの着床率、貫入率が有意に上昇するというデータを得られた。同様に子宮内膜上皮層を通過したのちに胚が陥入していく子宮内膜間質細胞との関連性の解析を実施したところ、上皮細胞の場合とは異なり、細胞の遊走性、接着性に明確な影響を及ぼすとは言えないという結果を得た。興味深いことに、胚と子宮内膜細胞との相互作用(胚の接着性、子宮内膜細胞の運動性)については、胚、子宮内膜上日細胞、子宮内膜間質細胞の3者のさまざまな組み合わせの共培養によって、一部その方向性(促進、抑制、不変)に違いが認めれれた。これらは着床における胚と子宮内膜細胞との対峙から陥入にいたるまでのプロセス、あるいはスクラッチの子宮内膜組織への到達深度などにより生体反応が異なることを示唆しているものと考えられた。
すべて 2022
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Stem Cell Res
巻: 13 ページ: -
10.1186/s13287-022-02888-y