研究課題/領域番号 |
19K09776
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小野 政徳 金沢大学, 附属病院, 講師 (70348712)
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研究分担者 |
毎田 佳子 金沢大学, 保健学系, 教授 (20397219)
藤原 浩 金沢大学, 医学系, 教授 (30252456)
大黒 多希子 金沢大学, 学際科学実験センター, 教授 (30767249)
安藤 仁 金沢大学, 医学系, 教授 (50382875)
藤原 智子 京都ノートルダム女子大学, 現代人間学部, 教授 (60310744)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 概日リズム / 子宮 / 月経困難症 / 子宮筋腫 / 子宮内膜症 / 摂食リズム / 生活習慣 / 子宮平滑筋 |
研究実績の概要 |
近年流産や不育症例で子宮の末梢時計機能に異常がある可能性が報告された。しかしながら未だ時計機能低下を誘導する因子や時計機能低下により流産が誘導される機序は不明のままである。我々は、子宮特異的な時計遺伝子欠損マウスを作出し、子宮の時計機能異常が胎盤形成障害を介して流死産を誘導することを新たに解明した。さらに摂食リズムが直接マウス子宮時計遺伝子の発現を制御すること、若年期の女性で概日リズムを乱す食生活が月経痛を増悪すること、若年期に月経痛を有した女性は痛みが改善しても妊娠高血圧症候群の罹患リスクが高いことを見いだした。 今回、子宮特異的なBmal1欠損マウスであるBmal1 cKOを用いた我々の知見では、初期の胚着床は正常に起こるものの、その後の妊娠維持が阻害される(不育症)可能性が新たに示され、上記のヒト不育症における時計遺伝子の関与を示唆する知見に合致する結果を得た。 また我々は、概日時計が子宮収縮の制御に関わることを推定した。そこでマウスで子宮の時計遺伝子群の発現を検討したところ子宮のBmal1遺伝子が臓器内の同期性を示しながら24時間の発現リズムを有することが示され、さらにこれらの子宮時計遺伝子リズムが摂食刺激でリセットされることを明らかにした(Curr Dev Nutr., in press)。さらに我々の推定を裏付ける臨床研究として、妊娠期の前方視的コホート研究を行った。その結果、子宮収縮の異常が問題となる月経困難症既往がある群では有意に妊娠高血圧症候群発症のリスクが高いことを明らかにした(J Obstet Gynaecol Res. 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前より我々のグループは、若年女性の朝食欠食に月経痛が伴うことに注目し、その機序として光リズムと食事リズムの乖離が生殖機能障害をもたらす可能性を報告してきた。また、食事リズム異常に付随する月経痛を産婦人科疾患の普遍的なリスクと捉え、若年期の食習慣異常が産婦人科疾患を誘発する概念を提言してきた。我々は、不育症患者における子宮の末梢時計機能異常や女性シフトワーカーにおける生殖機能低下や不妊、流産の罹患率の増加などの報告から、我々は概日リズム・時計遺伝子機能・子宮機能および産婦人科疾患の間には重要な因果関係が存在すると着目している。 今回の研究で、若年期に月経痛を伴っていた妊婦に妊娠初期の胎盤形成不全が要因とされる妊娠高血圧症候群の罹患率が高いことを見いだし、臨床研究を継続している。また、Bmal1-floxマウス(Bmal1f/f)とprogesterone receptor (PR)-creマウス(PRcre/cre)を用いて、PR発現組織(子宮および卵巣黄体の一部など)でのみCre-loxP部位特異的組換えを起こす子宮特異的Bmal1コンディショナルノックアウトマウス(Bmal1 cKO)を作製し、子宮におけるBmal1の機能について解析を行なっている。 Bmal1 cKOの妊娠子宮では、着床数の減少、着床部位の吸収や胚の成長遅延などの病的な状態を呈し、全例が流死産に至ることを見出した。さらに、着床部および胎盤を組織学的に解析すると、血管新生の阻害、特に母体血管領域の縮小が観察された。以上の結果から、子宮の末梢時計の機能異常が胎盤形成の障害を引き起こし、流死産を誘導することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
生体の概日リズム制御を司る時計遺伝子の発現は、生物の発生、成長、生命の維持において重要な役割を果たす。生殖現象においても、視床下部-下垂体-性腺(HPG)軸におけるキスペプチンやゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)分泌などで形成される生殖リズムは時計遺伝子の制御を受けている。例えば中枢時計機能の障害によりLHサージが抑制されること、またBmal1 KOで末梢時計機能が障害されると黄体ホルモンが低下して不妊となることが報告されている。また、分娩においても、生物種特異的に分娩する時間は概ね定まっており、通常マウスは早朝に分娩し、ヒトの陣痛は夜や早朝に始まることが多いことがわかっている。これらの事実は、概日リズムが時計遺伝子を介して生殖において重要な役割を果たしていることを示している。 今後の研究の推進方策として、マウスを様々な制限食餌下で飼育し、生体内の各組織で時計遺伝子群の発現を解析し、食餌の時計遺伝子発現に対する役割と各組織間での反応の違いを明らかにする。また、子宮特異的にBmal1時計遺伝子をノックアウトした遺伝子改変マウスBmal1 cKOを用いてマウス月経モデルを作成し、マグヌス管を使用した子宮筋収縮解析を行い野生型のそれと比較検討する。 臨床研究では産婦人科を受診した患者を対象に青年期(15-24歳)や結婚後の食生活様式に関する質問紙調査を行い群分けし、子宮内膜症の発症や進展、妊娠糖尿病や早産などの周産期疾患の発症と関連する食生活習慣因子を抽出する目的でコホート研究を継続する。 これらの新しい知見の集積により信頼性の高い新しい予防プログラムの作成に着手する。今後のさらなる本研究の継続が、概日時計の乱れと生殖機能異常の因果関係の解明に寄与するものと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画通り次年度使用額は翌年度分として請求し、使用計画している。
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