研究課題/領域番号 |
19K09784
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
池崎 みどり 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (40549747)
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研究分担者 |
井原 義人 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70263241)
岩橋 尚幸 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (50750907)
山本 円 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (70596973)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス / 分子シャペロン / カルレティキュリン / 糖タンパク質 / 胎盤形成不全 |
研究実績の概要 |
カルレティキュリン(CRT)は小胞体内で機能する分子シャペロンであるが、細胞膜表面や細胞外スペースなど小胞体外にも存在する。本研究は、細胞外におけるCRTが胎盤形成不全にどのように関連するのかの解明を目的とする。まず、胎盤形成不全を主病態とする妊娠高血圧腎症(PE)患者由来検体の解析を行った。PE患者胎盤ではCRT発現量に変化は見られなかったが、血清中のCRTタンパク量は優位に上昇していた。ヒト胎盤組織では栄養膜細胞でCRTの発現が高いため、ヒト胎盤絨毛モデル細胞株(HTR8/SVneo細胞、BeWo細胞)を用いて解析を行った。PEや胎盤形成不全の発症には小胞体ストレスが関与するため、小胞体ストレス誘導剤によりヒト胎盤絨毛モデル細胞株からCRTが細胞外へ放出されるかどうかを調べた。その結果、絨毛膜外栄養膜細胞モデルのHTR8/SVneo細胞ではなく、細胞性栄養膜細胞のモデルであるBeWo細胞において小胞体ストレス誘導によりCRTが細胞外へ放出されることが分かった。 次にCRTの細胞外への放出と胎盤形成不全がどのように関連するのかを調べた。BeWo細胞はフォルスコリン処理によりシンシチウム化(合胞体化)することが知られている。BeWo細胞に上記の細胞外CRT含有培地を添加することにより、①フォルスコリン誘導性のシンシチウム化が抑制されること、②シンシチウム化の初期段階に必須であるE-カドヘリンの膜局在の低下とゴルジ体への集積が起こることが分かった。抗CRT抗体を用いてCRTを免疫除去した培地ではこのようなE-カドヘリンのゴルジ体集積とシンシチウム化抑制が改善された。以上から、小胞体ストレスにより細胞外に放出されたCRTはE-カドヘリンの細胞内輸送を妨げることにより細胞性栄養膜細胞のシンシチウム化を抑制し、胎盤形成不全に寄与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の研究により、小胞体ストレスによりヒト胎盤モデル細胞からCRTが放出されること、このCRT含有培地によりBeWo細胞においてフォルスコリン誘導性シンシチウム化が抑制されることを世界で初めて見出した。また、この時E-カドヘリンの正常な細胞内輸送が妨げられていることが明らかとなった。しかしながら、上記のCRT含有培地ではCRT自体が機能するのか、あるいはCRTに結合しているタンパク質がシンシチウム化抑制に関与しているのか不明である。これの解決にはリコンビナントCRTタンパク質が必要である。そのため、令和3年度は大腸菌由来のリコンビナントCRTタンパク質の発現系および精製システムの確立を進めている。当初予定していた初代培養ヒト細胞性栄養膜細胞を用いた解析は、共同研究者の海外留学先における研究活動がコロナウイルス感染症蔓延に伴い続行不可となったため中止する。
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今後の研究の推進方策 |
細胞外CRTによりシンシチウム化が抑制される分子機構を明らかにするために、大腸菌に発現させたリコンビナントCRTタンパク質を精製し、詳細な解析に用いる。シンシチン-1やシンシチン-2およびその受容体ASCT2、MFSD2aはE-カドヘリンと同様にシンシチウム化を制御する膜タンパク質であることから、リコンビナントCRTタンパク質がこれらの分子の細胞内輸送に与える影響を解析する。HTR8/SVneo細胞については、細胞外CRTによる浸潤能低下が報告されているがその分子機構は不明である。我々の以前の研究成果を踏まえ、基質接着に重要なインテグリンβ1等の細胞内輸送への影響を調べる。 令和2年度にはBeWo細胞において小胞体ストレス誘導剤によりCRTが細胞膜表面へ局在するという結果も得られている。細胞表面のCRTは特に癌細胞においてeat-meシグナルとして機能することが報告されているため、胎盤絨毛細胞においてもそのような機能を有するかどうかについて令和3年度に検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度において新型コロナウイルス感染症蔓延のため当初予定していた学会に参加できなかったことが、次年度使用額が生じた一因である。また、種々の実験に使用する試薬、抗体および細胞培養試薬、消耗品については、キャンペーンなどを利用するなどして節約に努めたため、当初の予定金額より支出が抑えられた。 令和3年度は、シンシチウム化関連分子に加え、浸潤能・基質接着関連分子について、前年度と同様の解析を行う。また、令和2年度に実施できなかった低酸素ストレスによるCRTの局在変化について解析を行う。研究費の繰越分は、標的タンパク質の確認と同定のための生化学・免疫学的解析に関連する研究試薬、低酸素培養キットの購入に使用する。国内外の学会における積極的な成果発表、研究成果の論文発表の為の掲載料等も必要であり、次年度使用額の一部を充填する予定である。
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