研究課題/領域番号 |
19K09793
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
康 宇鎮 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 研究員 (10647978)
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研究分担者 |
河野 菜摘子 明治大学, 農学部, 専任准教授 (00451691)
宮戸 健二 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 室長 (60324844)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クエン酸合成酵素 / 加齢 / 妊孕性 / 非ミトコンドリア型 / eTCA回路 / カルシウムオシレーション / 男性不妊 |
研究実績の概要 |
不妊症の半数は男性に原因があり、「無精子症」や「乏精子症」が知られている。一方、精子が作られるのに、年齢にともなって進行する男性不妊も知られているが、原因は不明である。本研究ではTCA回路の律速酵素であるクエン酸合成酵素(citrate synthase: CS)、特に、精子で発現している非ミトコンドリア型クエン酸合成酵素(extra-mitochondrial citrate synthase: eCS)に着目し、その精子での機能消失による、受精時における卵活性化システムの異常、さらに、加齢にともなう男性不妊との関連を明らかにする。具体的には、eCs欠損雄マウスが生後6ヶ月(ヒトの約30歳に相当)で不妊になることから、eCSの機能解明は、加齢にともなう、生殖能の低下を含めた様々な疾患の原因解明につながると推測した。実際、eCSは色素細胞の前駆細胞や一部の神経細胞の集団でも発現している。本年度は、精子で発現するeCSを介した卵活性化機構の解明と、精子におけるeCSの発現低下、クエン酸合成活性の低下と加齢との関連について検討した。そこで、eCs欠損精子では、既知の精子ファクター(ホスホリパーゼCゼータ: PLCz1)が正常に発現しているにも関わらず、カルシウムオシレーションのパターンが著しく乱れた。特に、カルシウムオシレーションの第一スパイクと頻度が、野生型マウスと比較して有意に低下していることが明らかになった。以上のことから、2種類の精子ファクターが存在し、カルシウムオシレーションには前半(開始)と後半(持続)の2つの過程が存在することが明らかになった。この成果を論文として発表した(世界初・「卵活性化」の新たな精子ファクターを発見、Laboratory Investigation, 2020; 表紙を飾る)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クエン酸合成酵素は、イモリで精子ファクターとして機能することが報告されており(Harada et al., Dev Biol, 2007)、哺乳類でも同様の仕組みが存在する可能性が考えられた。哺乳類では、クエン酸合成酵素にはすべての細胞に存在するミトコンドリア型(CS)と、あまり知られていないが、Cs遺伝子からのスプライシングバリアントとして、非ミトコンドリア型クエン酸合成酵素(extra-mitochondrial citrate synthase: eCS)が作られる。マウスでは、CSをコードする遺伝子と、eCSをコードする遺伝子の2つの遺伝子が存在することが、研究を進めるにあたり有利であり、また、クエン酸合成活性の主体はCSであり、eCs欠損マウスを作製した当初から、eCs欠損精子との融合によって卵におけるカルシウムオシレーションが起こりにくくなることはわかったものの、雄性不妊にはならなかった。ただし、そこで諦めることなく、雄マウスの生殖能が週齢を追って解析したところ、6ヶ月を過ぎると生殖能が極めて低くなることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、加齢による不妊の原因を探索するため、eCs欠損加齢雄マウスから採取した精子の機能解析を行い、さらにはどのような作用機序で加齢精子が機能低下に至るのか、詳しく調べていく予定である。また、eCSが加齢にともなうエネルギー代謝の低下を補っている可能性があるため、eCSが制御するエネルギー代謝がどのように妊孕性の低下に関わっているのか、調べたいと思っている。また、論文には記載できなかったものの、一度消失した雄性生殖能も、一度、雌マウスを出産させることに成功したeCs欠損雄マウスでは、生殖能が持続して維持される(若返り?)ことも明らかになった。おそらく、若齢ではeCSの機能をCSが補完しており、加齢にともなってCSの発現または活性が低下することが考えられる。さらに、CSの発現制御には、加齢にともなう何らかの因子(血糖値、血圧、過酸化脂肪の蓄積の上昇など)が関わっていることと、CSの発現低下は可逆的に変化する可能性も推測された。特定の細胞(精子、色素細胞、神経細胞)におけるeCSとCSをつなぐネットワーク(TCA回路とcTCA回路)の存在の解明にも今後挑戦したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) コロナウイルスの影響で海外からの供給が難しくなったため、納品されなかった物品があり、20,836円の次年度用額が生じてしまった。 (使用計画) 引き続き、次年度の計画を基に物品費として使う予定である。
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