研究課題/領域番号 |
19K09793
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
康 宇鎮 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 研究員 (10647978)
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研究分担者 |
河野 菜摘子 明治大学, 農学部, 専任准教授 (00451691)
宮戸 健二 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 室長 (60324844)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クエン酸合成酵素 / 加齢 / 妊孕性 / 非ミトコンドリア型 / eTCA回路 / カルシウムオシレーション / 男性不妊 |
研究実績の概要 |
細胞質内での反復したカルシウム濃度の変化(Ca2+ オシレーション)はセカンドメッセンジャーとしてさまざまな細胞の生体反応の制御に重要な働きをする。受精では、一般的に精子による卵活性化は、ホスホリパーゼCゼータ1(PLCz1)によって誘導されるCa2+ オシレーションが引き金となり、第二減数分裂中期に停止していた細胞分裂を再開になることが知られている。クエン酸合成酵素(citrate synthase; CS)はミトコンドリア内腔のマトリックスでアセチルCoAとオキサロ酢酸の間の反応を触媒し、クエン酸を合成する。マウスでは別の遺伝子としてミトコンドリア外で働くクエン酸合成酵素(extra-mitochondrial CS; eCS)が存在し、精子による新たな卵活性化因子として働いていることが我々の研究から明らかになった。しかし、広範な細胞機能においてeCSによるカルシウムオシレーションの役割は不明である。そこで本年度は、神経細胞の働きにeCSがどのように関与するのかを調べるために、eCs欠損マウスを用いて神経系における局在と表現型を調べた。興味深いことに、小脳皮質の狭い層であるプルキンエ層でeCSが発現していることが明らかになった。また、eCs欠損マウスは正常に生まれるものの、新生仔の体重が著しく軽いことがわかった。さらに、出生後の体重変化を測定し、野生型マウスと比較したところ、生まれてから8週齢までは野生型と比べ体重が減少しており、特に3週齢から6週齢までの期間(4週間)では、有意な体重の低下がみられた。一方、9週齢からは体重が野生型マウスと同等まで回復し、減少傾向は認められなかった。これらの結果からeCSが発現している神経細胞は離乳後の新生仔の急激な体重増加の調節に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
eCSは生殖細胞に限らず、一部の神経細胞の集団でも発現していることはわかっていた。本年度の研究成果からは神経細胞においてeCSの機能を調べたところ、eCSは小脳の主要な出力細胞であるプルキンエ細胞に発現していることが明らかになった。eCs欠損マウスの出生後の新生仔の体重増加が一時的に遅延することから、生殖細胞において卵活性化(カルシウムオシレーション)を誘導する因子として働くeCSが神経細胞でもカルシウムシグナルを誘導する因子として成長調節に関与していることが考えられた。 他にもミトコンドリア外TCA(eTCA)が存在する可能性を調べるため、eCS-GFP融合タンパク質のベクターをヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)に導入し、eCSの細胞内局在を調べた。これまで知られている通りに、CSは主にミトコンドリアに存在しているが、eCSはCSとは異なる細胞質に広範に局在していることがわかった。したがって、eCSはミトコンドリアで働くCSとは異なる経路で細胞内エネルギー産生に関わっていることが推測された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果から小脳のプルキンエ細胞にeCSが局在し、出生後の新生仔の体重の調節に機能している可能性が示唆された。小脳におけるeCSの詳しい機能についてはまだ検討段階である。小脳では「うつ病」「自律神経失調症」などの関連があることから今後検討する必要がある。カルシウムオシレーションを誘導するeCSが精子以外でも、特に小脳のプルキンエ細胞に発現していることから、神経系と生殖系が何らかのメカニズムによってつながっている可能性が考えられた。次年度では、他にeCSの発現が確認されている色素細胞においてもeCSの機能を今後検討していきたい。 さらに、eTCA回路の存在を証明するため、eCSが主に局在する細胞質でのクエン酸合成酵素活性の有無を調べていく予定である。また、eTCAが直接エネルギー代謝に関わっている可能性があるため、ミトコンドリアを除去した細胞質でのATP産生の有無についても調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 論文投稿し、修正して再投稿のプロセスが年度末になってしまい、論文掲載料208,522円の次年度用額が生じてしまった。 (使用計画) 引き続き、次年度に論文掲載料として使う予定である。
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