研究課題/領域番号 |
19K09813
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
池田 真利子 日本医科大学, 医学部, 助教 (10740988)
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研究分担者 |
明樂 重夫 日本医科大学, 医学部, 教授 (40231849)
根岸 靖幸 日本医科大学, 医学部, 講師 (50644580)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / 内膜症性卵巣囊腫 / 無菌性炎症 / HMGB1 |
研究実績の概要 |
子宮内膜症は、月経異常、月経困難症、不妊症、卵巣腫瘍などさまざまな症状、病態を引き起こし、生殖年齢女性のクオリティーオブライフを大きく左右する。現在の子宮内膜症に対する治療法は、対処療法を含めた薬物療法、ホルモン療法、時には外科治療を有するものの、まだ十分とは言えない。また子宮内膜症発症の原因や増悪因子は不明な点も多く、さらなる治療法、管理法が待ち望まれている。 近年、子宮内膜症発症メカニズムについて、マクロファージやNK細胞といった支援免疫担当細胞の役割が注目されており、腹腔内に逆流した子宮内膜組織断片(デブリ)と上記の免疫細胞が異所性慢性炎症を引き起こしている可能性が示唆されている。これらの炎症は一般には病原体感染を伴わない、いわゆる「無菌性炎症」に起因する反応と捉えることができる。 本研究では、我々は子宮内膜症を「無菌性炎症に起因する免疫反応」と捉え、病変部における各種免疫細胞解析と、炎症を惹起するアラーミンに着目し、新たなメカニズム提唱、解析と新規治療法開発を目指している。 具体的には、手術で得られた内膜症性卵巣嚢腫に存在する免疫細胞群(樹状細胞、マクロファージ、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、B細胞、natural killer (NK)細胞、invariant natural killer T (iNKT)細胞)の動態を、非内膜症性卵巣嚢腫症例(皮様嚢腫、漿液性嚢胞)と比較しその特徴を検討する。さらに無菌性炎症を惹起し得るアラーミンの一つである、細胞障害時に能動的、受動的に産生されるHigh mobility group box 1(HMGB1)に注目し、その放出を内膜症性嚢胞群、非内膜症性嚢胞群で比較し、増悪因子になる可能性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、内膜症性卵巣嚢腫、非内膜症性卵巣嚢腫において、主にフローサイトメーターを用いて細胞解析を行っている。現時点で、前者は後者に比較し、免疫細胞、非免疫細胞中の細胞内に放出されたHMGB1は有意に高い(特に樹状細胞、マクロファージなどの抗原提示細胞)ことを見いだしている。さらに、このHMGB1の細胞内放出は修正米国不妊学会分類(r-ASRM分類)のスコアと相関することも見いだしている。さらに、各細胞群の分布解析では、内膜症性卵巣嚢腫群ではCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞が有意に多く集積しており、内膜症病変ではリンパ球浸潤を中心とした慢性炎症が亢進している可能性が認められている。 以上、現時点では、子宮内膜症病変ではTリンパ球を中心とした慢性炎症が生じており、HMGB1がその増悪因子となる可能性が示唆されている。
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今後の研究の推進方策 |
HMGB1は急性期には炎症性サイトカインの産生を亢進させ、炎症誘導に寄与することが一般的に知られている。しかしながら近年、HMGB1の慢性的な刺激は、制御性T細胞や免疫抑制性のM2マクロファージを誘導し、局所の免疫抑制作用を誘導することが指摘されるようになった。このような背景において、我々は「内膜症性卵巣嚢腫ではHMGB1に基づく慢性炎症が引き起こされており、これは長期には免疫抑制作用を発起し将来の癌発生母地になっているのではないか」との新たな仮説を立てた。この考えに基づき、現在我々は免疫細胞の検索範囲を広げ、制御性T細胞、M1/M2マクロファージ分画、DC1/DC2分画、骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cells、MDSCs)の解析も行っている。 さらに細胞解析に加え、免疫組織染色、組織から分離したex vivo実験も予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
各種抗体、試薬を効率的に使用した。またまだ学会報告のためのデータがそろっておらず、学会参加費(旅費)が発生しなかった。以上により本研究に対する次年度使用額が生じたと思われる。
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