研究実績の概要 |
哺乳類の精子は、射出直後は受精する能力を持っていない。卵子と受精する前に受精能を獲得する必要がある。受精能を獲得した後に鞭毛運動様式変化(超活性化)や先体反応を誘起することができる。これらは卵管内の物質により制御されている。本研究では卵管内に存在する5HT (5-hydroxytryptamine,セロトニン)が精子受精能獲得にどのような影響を及ぼすかを検討する。5HTは主に神経伝脱物質として、脳機能や腸管運動に関わっている。5HTは受容体を介して作用するが、受容体には約11種類のタイプがあると報告されている。ヒトの生殖系では5HTが精子運動速度に影響を及ぼすことが知られているが、どの5HT受容体が関わっているのかは報告がない。本研究では様々な濃度において精子にどのような影響があるのかを調べる。精子運動に関するパラメーターを数値化してどのように作用するのか検討する。シリアンハムスターの精子における超活性化と先体反応は、共に5HT2受容体と5HT4受容体を介して調節されることが報告されている。ヒトの精子においては、5HT1受容体、5HT2 受容体、および5HT3受容体があり、5HTの添加によっていずれかの受容体を介して精子の運動速度が上昇することが報告されている。既に我々は、マウス精子において、超活性化の促進には5HT2、5HT3、5HT4、5HT7受容体が関わっているという成果を得ている。従って、5HTは超活性化を含む精子の運動性を調節すると考えられるが、その調節機構はこれまで不明である。本研究では、5HTによるヒト精子の超活性化の調節機構につきCASA(computer-aided sperm analysis)を使用して検討し、男性不妊治療の1つとしてセロトニンが有用かどうか検証する。
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