研究課題/領域番号 |
19K09816
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
田中 尚武 千葉県がんセンター(研究所), 婦人科, 部長 (80236611)
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研究分担者 |
筆宝 義隆 千葉県がんセンター(研究所), 発がん制御研究部, 部長 (30359632)
丸 喜明 千葉県がんセンター(研究所), 発がん研究グループ 発がん制御研究部, 研究員 (30742754)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 卵巣がん / オルガノイド / 患者由来がんモデル / 薬剤感受性 |
研究実績の概要 |
マウス由来正常上皮のオルガノイド培養に利用していた手法をそのまま卵巣がんの臨床検体に応用しても患者由来卵巣がんオルガノイドの樹立効率は低かった。そこで、組織からの細胞の分離操作を一部改変することで、卵巣がんに対する高効率なオルガノイド培養法を確立し報告した(Maru, Tanaka et al, Gynecol Oncol, 2019)。具体的には、酵素処理の操作と2段階でがん細胞を回収する操作をそれぞれ追加した。樹立した卵巣がんオルガノイドは基本的に元の腫瘍の形態学的特徴(組織像、タンパク発現、粘液産生性)や遺伝子異常を保持しており、長期培養後のオルガノイドにおいても明らかな遺伝子変異の蓄積は確認されなかった。また、ゲノム解析により卵巣がんオルガノイドはほぼ腫瘍細胞で構成されていた。オルガノイドを用いた薬剤感受性評価については、増殖速度が速いものでは、検体採取から2週間程度で実施可能であった。 本手法の汎用性を確認するため、他の婦人科がんにも応用したところ、子宮体がんよび子宮頸部腺癌のオルガノイド培養に成功した。中でも希少がんである子宮頸部明細胞癌のオルガノイド樹立に世界で初めて成功した。同症例ではゲノム解析でMET増幅を認めたため、MET阻害剤に対する感受性を評価したところ、非MET増幅オルガノイドに比べ有意な抗腫瘍効果が示した(Maru, Tanaka et al, Cancer Sci, 2019)。このことから、卵巣がんにおいても、同様のアプローチで分子標的薬の感受性評価が可能なことが示唆された。さらに、腫瘍だけでなく正常組織からのオルガノイド樹立も試みたところ、これまでに卵管上皮および子宮内膜からのオルガノイド培養にも成功しており、本研究でのコントロールとしての利用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵巣がんの臨床検体から系統的にオルガノイドの樹立を試みたが、研究対象となった症例の進行期、組織型に偏りがみられた。そこで、より多様な症例からオルガノイド培養が実施可能となるように他施設の臨床検体も利用可能とする倫理審査申請を行った。当院での承認は得られ、現在他施設において倫理申請中である。承認後は、様々な臨床病理学的背景を伴う卵巣がんからのオルガノイド培養が実施可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの患者由来卵巣がんオルガノイド樹立の試みから、組織型によって培養成功率が異なる印象を持っている。そこで、オルガノイドの樹立が困難な組織型について培養法の最適化を試みる。また、過去にオルガノイドを樹立した卵巣がん患者の中には再発の有無、治療効果、予後などの臨床的情報を付加できる症例も存在するため、予後不良群に分類される症例については網羅的な薬剤や化合物のスクリーニングを行い治療薬候補の同定を行う。また、治療抵抗性の症例については、その分子機構を解明するため、オミックス解析を実施する。引き続き、患者由来卵巣がんオルガノイドの樹立とその評価(形態、腫瘍原性など)、薬剤感受性試験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度内に納品が間に合わなかったため、次年度繰り越しとした。
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