研究課題/領域番号 |
19K09830
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
菊池 昭彦 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (10280942)
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研究分担者 |
金杉 知宣 岩手医科大学, 医学部, 非常勤医師 (40453302)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 母体腹壁誘導胎児心電図 / 胎児心拍数基線細変動 / 胎児発育不全(FGR) / カオス時系列解析 / アトラクタ再構成 / 最大リアプノフ指数 / 相関次元 / サロゲート データ法 |
研究実績の概要 |
健常胎児と種々の異常胎児における心拍数変動ダイナミクスの差異を、母体腹壁誘導胎児心電図を用いてカオス時系列解析で明らかにすることを目標とし、妊娠18週以降の妊婦に対して本法と超音波ドプラ法による胎児心拍数記録を同時施行した。121例正常単胎胎児(コントロール;C群)82例と発育不全胎児(FGR群)34例の計116例を解析対象とした。検査時妊娠週数の内訳はC群で妊娠18週以降28週未満21例(26%)、28週以降33週未満38例(46%)、33週以降23例(28%)、FGR群では各々13例(38%)、13例(38%)、8例(25%)であった。胎児心電図検出状況は、[α;記録時間の70%以上で検出可能、β;記録時間の30-70%で検出可能、γ;記録時間の30%以下のみ検出可能]としたところ、C群では[α; 15例(18%)、β; 18例(22%)、γ; 49例(60%)]、FGR群では[α; 14例(41%)、β; 5例(15%)、γ; 15例(44%)]であった。今回はα症例を対象とし、リアプノフ指数及びサロゲートデータを用いた検証と相関次元を検討した。胎児心電図法と超音波ドプラ法の関連についても評価した。心電図法で記録した胎児心拍数では最大リアプノフ指数はC群、FGR群ともに正でありカオス的特徴である初期値鋭敏性を有すると考えられた。フーリエトランスフォームを用いたサロゲートデータ法によっても心拍数変動の特異的な非線形性が認められた。相関次元については心電図法でも超音波ドプラ法でも両者に有意な差は認めなかった。相関次元を妊娠週数別に評価したところ、心電図法ではC群もFGR群も検査週数による変化は認めなかったが、超音波ドプラ法ではC群で33週以降群は33週未満群に比べて有意に相関次元は高値であったがFGR群では検査週数による変化は認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ陽性妊婦に対しては本検査が施行困難であり症例登録数が伸び悩んだことが原因である。さらに、母体腹壁誘導胎児心電図の検出率の低さが解析能力と検出力の低下につながっている。今回の超音波ドプラ法による胎児心拍変動の解析では、我々が以前報告したように、正常発育症例の胎児発育不全症例に対する最大リアプノフ指数の高値傾向や正常発育症例の週数による相関次元の有意な変動が確認されたものの、正常発育症例と胎児発育不全の相関次元に有意差を検出することはできなかった。今後はα症例のみならずβ、γ症例のデータ補完による解析症例数の増加を図り、より精度の高いデータ利用を考慮する。
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今後の研究の推進方策 |
β、γ症例の胎児心電図波形実記録データに対してもアーチファクト部分のデータ補完による編集作業を行った後、当研究室が有している解析プログラムソフトにより、母体腹壁誘導胎児心電図データと超音波ドプラ法データの双方それぞれに対して、①胎児心拍数変動のアトラクタ再構成、②最大リアプノフ指数計算とサロゲートデータ法による検定、③相関次元計算、を行い、双方の結果を比較し、以前の研究で行った後者による解析結果の正確性・妥当性の検証を行う。その後に、母体腹壁誘導胎児心電図データを用いて妊娠週数の進行に伴う心拍数変動ダイナミクスの経時的変化を正常・異常胎児において定量化し、胎児予後の予測マーカーとしての可能性を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症パンデミックが落ち着いてきたものの、まだ本研究に関連する多くの学会や研究会の開催がコロナ前に比較して少なかったことにより、学会・研究会参加費と出張費の使用が大幅に減少し次年度使用額が生じた。raw data編集作業と編集後データによるカオス時系列解析を全症例に対して行う必要があるため、次年度使用額を使ってデータ保存・解析・統計学的検討を行っていく。また、今後は学会・研究会の開催も増えてくることが予想され、参加費や出張費への支出として使用予定である。
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