研究課題
癌の早期発見は生存率の向上につながる。しかし卵巣癌は卵巣が腹腔内臓器であるという特性から早期発見が困難であり、初診時に進行して発見される例も少なくない。そこで本研究は微量な遺伝子変異の検出から卵巣癌早期発見につなげるための実装可能な検出ツールを開発することを目的としている。本年度は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の原因遺伝子であるBRCA1/2の生殖細胞系列病的variant保持者で、本人同意のもとにリスク低減両側卵巣卵管摘出術(RRSO)が施行された症例の病理組織検体のうちSectioning and Extensively Examining the Fimbriated End Protocol(SEE-FIM)に従って切り出しされた卵巣および卵管検体の基礎的検討から検査法確立を目指した。まず、卵管上皮から発癌する卵巣癌において、漿液性卵管上皮内癌(STIC)の状態での早期検出を目的としRRSO検体におけるSTICの詳細を検討した。その結果、STICはRRSO全例中1症例の卵管采に2箇所検出された。2つのSTICのki67蛋白発現は共に強陽性であったが、P53蛋白の発現は強発現と消失を示した。さらに各STICからは蛋白発現の差異の根拠を示すTP53遺伝子変異が検出された。本結果よりSTICの検出にはP53とki67の蛋白発現による確認が必要と考えられた。次に、細胞形態に異型の無い卵管上皮にP53蛋白強発現を示すにもかかわらず、未だ癌化への関与が不明であるであるP53signatureの検討を行った。まず検出部位を卵管の解剖学的に分けて解析した。その結果、P53signatureはRRSO検体の卵管采に高頻度に出現することが判明した。本結果は卵管上皮が発癌起源とされる卵巣癌において卵管采からの発癌が高頻度とされている現在までの他の報告を裏図ける結果であると予測されたが、比較症例とした良性の婦人科疾患例にもP53signatureが卵管采に同頻度で検出された。以上よりP53signatureの癌化リスクとしての意義はさらなる解明が必要であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は卵管上皮から発癌するとされている卵巣癌の早期発見につながる検査手法の開発を目的としている。本年度は卵管上皮由来の卵巣癌が高頻度とされるBRCA1/2遺伝子生殖細胞変異保持者のRRSO検体の症例が蓄積されたため目的とする解析の実施が可能であった。また、検査手法の基準となる貴重なデーターを取得することが出来たことよりおおむね順調に進展しているとした。
P53signatureの前癌病変としての可能性を他の解析を組み合わせて解明することでP53signatureの段階での遺伝子変異や蛋白発現の検出が癌の早期検出に有用であるか否かの検証を行う。さらにSTICの特性を微量細胞からの遺伝子変異の検出と蛋白発現の2重染色法の確立から卵巣癌早期発見のための検出法へと発展していく予定である。
本研究内容で必要な解析方法に次世代シークエンサー解析を行うことが予定されている。次世代シークエンサー解析は一定数量の検体が収集された時点での機器の稼働が解析効率や費用的な面で望ましい。そこで今年度は解析のためのNGS解析用libraryの作成までを行い、作成完了検体が一定量収集されるまで機器の稼働を保留し、次年度にシークエンサーのRUNを予定した。そのため解析に必要なサイクル試薬の購入を翌年度に持ち越したことから次年度使用額が生じた。
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Scientific Reports
巻: 10 ページ: -
10.1038/s41598-020-69488-9
International Cancer Conference Journal
巻: 10 ページ: 6-10
10.1007/s13691-020-00449-9