膵島移植後の治療成績には向上の余地があり、ドナー膵臓が慢性的に不足しているという問題も抱えているため、ドナー組織を有効利用して治療効果を高める工夫が必要である。羊膜は免疫寛容の場であり、抗炎症作用や血管新生促進作用といった優れた特性を持つことから膵島移植の治療効果を高める生体材料として期待される。本研究では、糖尿病動物に対して同種同系、異系、または異種動物の膵島を内部に封入した羊膜を移植し、その治療効果を明らかにすることを目指した。さらには羊膜と同じ構成成分の人工羊膜を開発し、これで作成した膵島封入羊膜の移植の治療効果を明らかにすることを目指した。 初年度では妊娠マウスからの安定した羊膜の採取手技を習得し、それを受け、次年度では膵島封入羊膜の作成を進めた。羊膜は小さく、マウス膵島の完全なる密封は困難であったため、糖尿病マウスの腋窩に羊膜を留置し、マトリゲルの散布によりこれを固定し、2週間後に腋窩を解放し、羊膜内腔を開放し、その中に膵島をマトリゲルとともに散布する手法に切り替えて移植実験を行った。最終年度では羊膜内腔にマウス膵島をマトリゲルとともに封入し、羊膜を閉鎖することで膵島封入羊膜を作成し、これを精巣周囲脂肪組織の被覆により糖尿病マウスの脂肪組織へ移植した。腋窩への皮下移植(500膵島)、脂肪組織への移植(150膵島)ともに血糖の正常化を認めた糖尿病マウスは散見されたものの羊膜を使用しない移植モデルと比べて明確な有効性を示すには至らなかった。原因は現在検証中である。本研究を通じて羊膜の膵島移植への応用にはさらなる工夫が必要と考えさせられた一方、その過程で、移植膵島が脂肪組織に生着するメカニズムの一端を明らかにすることができた。
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