研究課題/領域番号 |
19K09846
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
竹野 幸夫 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (50243556)
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研究分担者 |
石野 岳志 広島大学, 病院(医), 講師 (80363068)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 好酸球性副鼻腔炎 / 精密医療 / 表現型 / スキャベンジャー受容体 / 一酸化窒素 / 遺伝子多型 / 気管支喘息 |
研究実績の概要 |
1)鼻副鼻腔における一酸化窒素(NO)産生とレドックス制御からみた粘膜組織障害機序の解明: 標的SRsの中でも、LOX-1遺伝子・蛋白が対照群に比較して、有意に発現亢進を認めた。またLOX発現と臨床重症度(CTスコアなど)には有意な正の相関が見られた。 2)NO合成酵素(NOS)の遺伝子多型と関連遺伝子発現の解析並びに、副鼻腔炎表現型(phenotype)と病態型(endotype)との関連性の検討: NOS2 のプロモーター領域のCCTTT 反復数を同定し、L/L もしくは L/S 群と S/S 群で比較を行った。その結果、篩骨洞粘膜におけるNOS2発現をL群とS群で比較したところ,ECRSと鼻アレルギー(AR)の有無において相違が認められた。 3)好酸球性副鼻腔炎(ECRS)に対する標準術式の確立と再発予防目的とした術式の開発: 移植片からのポリープ再発は認められなかったが、neo-ostiumの形態と開存性は残存粘膜の状態により狭小化しうることが判明した。これに対する対応として、今後は適切な削開開存度の検討、並びにステロイド添加鼻洗浄での管理法の標準化などを検討する予定である。 4)下気道病変から見た好酸球性副鼻腔炎(ECRS)病態と抗体製薬を用いたテーラーメイド医療の確立に向けた研究を行った。当院における呼吸器内科/耳鼻咽喉科での投薬実績と全国調査での結果から、抗IL-5抗体製剤と抗Il-4/13抗体製剤の有効性に関して、病理組織標本などを用い、有効なバイオマーカー候補を検索中である。 5)さらに現在、喫緊の課題となっているCOVID-19感染に関して、鼻副鼻腔へのSARS-CoV-2の感染機序の解明の一端にも取り組み始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鼻副鼻腔におけるレドックス制御機構とNO産生・代謝の関連性について、一連のスカベンジャー受容体(SR)のゲノム解析と遺伝子レベルでの発現を検討した。その結果、SRsの一種で生体内の酸化ストレスによって生じる酸化LDLの受容体であるLOX-1の機能的役割の発見につながった。Ox-LDLが取り込まれることで、内皮細胞機能不全やNOバイオアベイラビリティの低下を引き起こすことが知られている。今回の成果は慢性副鼻腔炎における虚血状態に由来する炎症反応におけるLOX-1の機能的役割を示唆しているものと推察される。 NOS遺伝子多型に関しては、NO上昇は上気道の好酸球性炎症を反映していると考えられる。今回の検討で好酸球性炎症と関連している疾患である ECRS と AR においてL群のほうが 有意に NOS2 が発現していたという興味深い結果を得ることができた。このことは,NOS2遺伝子におけるCCTTT 反復数は ECRSと喘息の共通の遺伝的危険因子の 1 つであり,NO濃度自体に加えて本疾患の診断や分類に役立つ可能性があると推察される。 これまでに確立した好酸球性副鼻腔炎(ECRS)に対する鼻副鼻腔手術方法にて再発前頭洞病変が評価できることを確認し、適切に管理するためにステロイド添加鼻洗浄と、病状に応じて抗体製剤を組み合わせることが有効であることを確認した。また遊離下鼻甲介粘膜を用いた手術の有効性においては、術後12か月の段階でもneo-ostiumの形態と開存性が認められ、鼻茸再発後に抗体製剤を用いて治療を行った後も開存性が維持されることが判明した。 抗体製剤においては抗Il-5抗体製剤、抗Il-4/13抗体製剤の有効性が症例により異なり、ECRSの病態型(エンドタイプ)の分類に治療における反応性が新たな指標として活用可能な展望が拓けた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、NOを介した喘息と好酸球性副鼻腔炎の統合オミックス解析、並びにNOS遺伝子群のジェノタイプ解析を継続する。呼吸器内科と共同研究で気管支喘息患者における副鼻腔炎と中耳炎の有無と、喘息への治療介入がECRS重症度分類に及ぼす影響の解析を経時的に症例を積み重ねて行う。臨床症状、検査値、採取検体などを指標に改善効果などとの関連を探索する。そして副鼻腔炎の表現型とエンドタイプ解析からみた抗体製薬の有効性と適応の妥当性について考察を行う。 さらに現在、喫緊の課題となっているCOVID-19感染に関して、鼻副鼻腔へのSARS-CoV-2の接着機序の解明にも取り組む予定である。これには我々が蓄積した研究技術と症例データベースが役に立つものと考えている。 以上の観点より、新たな研究切り口として遺伝子多型の詳細、喘息重症度との関連性、Type 2炎症を誘発する外来抗原の特定などに着目し、疫学データの収集と探索的な研究を継続しており、今後のシーズとして構想を練っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
R2年度に成果発表予定であった国際学会がCORVID-19の為に中止となったため。受理された論文の掲載費用の請求が来年度に延びているため。 R3年度に論文投稿、掲載費用支出と併せて発表予定としている。
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