研究課題/領域番号 |
19K09850
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
黒野 祐一 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (80153427)
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研究分担者 |
宮下 圭一 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 助教 (30585063)
川畠 雅樹 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 助教 (30585112)
永野 広海 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 講師 (60613148)
大堀 純一郎 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 講師 (90507162)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 粘膜アジュバント / 広域スペクトラム / 結合型ホスホリルコリ重合体(R-MPC) |
研究実績の概要 |
1.結合型ホスホリルコリン(PC)重合体(Reactive MPC:R-MPC)と卵白アルブミン(OVA)の結合性の確認 R-MPCとOVAを等量混和し、電気泳動法で両者の結合性を確認したところ、両者の結合物は単一のバンドを示し、その結合性が確認された。 2.R-MPC結合化OVAに対する粘膜免疫応答: ① R-MPCと結合化したOVA、② OVAとコレラトキシン(CT)、③ OVA単独、④ R-MPC単独、⑤ PBSをそれぞれマウスに週1回、3回、経鼻投与し、その免疫応答を観察した。その結果、①群と②群では、ほぼ同程度に唾液中および鼻腔洗浄液中のOVA特異的IgA抗体価の上昇が認められ、血清中のOVA特異的IgM、IgG、IgA抗体価も①群では②群より低値ではあるが有意な上昇がみられた。一方、血清中のPC特異的IgM、IgG、IgA抗体価は①群のほうが②群より高値を示した。さらに、血清総IgEは②群で著明に上昇したが、①群では軽微であった。なお、③群では唾液および鼻腔洗浄液中のOVA特異的IgAの上昇は認められず、④群でも血清中PC特異的IgM、IgG、IgA抗体価は上昇しなかった。 以上の結果から、R-MPCはCTにやや劣るものの、抗原特異的粘膜免疫応答を誘導するアジュバントになりうること、さらに抗原のみならずPCに対する免疫応答も誘導できることが示された。以前我々は、PC-KLHとOVAの混合物を経鼻投与してもOVA特異的粘膜免疫応答が誘導されないことを確認しており、PCは蛋白抗原と結合化して初めてアジュバント作用が生じると考えられる。また、CTと異なり、R-MPCをアジュバントとして使用した場合、血清総IgEが上昇しないことから、PCはCTとは異なる粘膜免疫誘導機序によってIgA応答を誘導すると推測される。CTはTh2型の免疫応答を誘導し、PCはTh1型によりシフトしたTh2型免疫応答を誘導することが知られており、その誘導機序を明らかにするため、抗原特異的T細胞活性の解析が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R-MPCがOVAと結合すること、そしてその経鼻投与で粘膜免疫応答を誘導できることが実証され、当初の仮説通り、R-MPCがアジュバント作用を有することが確認された。しかし、共同研究者である東京大学医科学研究所でのPspA、P6、ナノジェルの作成が遅れ、年度内に供与してもらうことができず、R-MPCとPspAおよびP6との結合性とその免疫応答、ナノジェルとのアジュバント効果との比較に関する実験を行うことができなかった。しかし、使用した抗原は異なるものの、東京医科学研究所で独自に行っているリコンビナントP6とナノジェルの経鼻投与実験とほぼ同等の抗体価が得られており、R-MPCがナノジェルとほぼ同程度のアジュバント効果をもっていると推測される。 また、新たな知見としてR-MPCをアジュバントとして用いると、CTとは異なり血清IgEの上昇がみられないことが判明した。これまでの研究で、PC-KLHをCTとともに経鼻投与した際も血清総IgEの上昇が抑制され、PC自体にIgE抗体活性の抑制作用があることが示されており、今回の実験における血清総IgE上昇の抑制は、R-MPCに含有されるPCによる作用と推測される。 さらに興味深い結果として、R-MPC結合化OVAを経鼻投与すると血清中のPC特異的抗体価が上昇したが、R-MPC単独経鼻投与ではPC特異的抗体価の上昇はみられなかった。すなわち、R-MPCは何らかの蛋白抗原と結合させることで、蛋白抗原のみならずPCに対する特異的免疫応答も誘導できることが示された。したがって、R-MPCをアジュバントとして用いることで、ワクチン抗原に加えて、グラム陽性および陰性菌の共通抗原となるPCに対する免疫応答が誘導され、よりスペクトラムの広いワクチンとなりうると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
共同研究を行っている東京大学医科学研究所で、P6とナノジェルの経鼻投与後に鼻腔へインフルエンザ菌を接種したところ、鼻腔からのインフルエンザ菌のクリアランスはP6経鼻免疫群で対照群と比較して有意に亢進した。しかし、インフルエンザ菌を経鼓膜的に中耳腔へ投与した場合、P6経鼻免疫群と対照群とで急性中耳炎の発症頻度に有意差はなく、P6経鼻免疫の急性中耳炎の予防効果は実証できなかった。すなわち、急性中耳炎を予防するには、より強力な免疫応答を誘導する必要があり、このことはR-MPCをアジュバントとして使用した場合も同様と考えられる。したがって、R-MPCのP6に対するアジュバント効果を早急に確認する必要があるが、リコンビナントP6の作成に時間を要しており、その実験を直ちに実施することはできない。そこで、PC-KLHとR-MPCの結合物を作成し、PC-KLHとCTを経鼻投与した際の免疫応答と比較し、さらにインフルエンザ菌ならびに肺炎球菌の鼻腔クリアランスへの影響、そして急性中耳炎の予防効果について観察することを計画している。 今回の研究でR-MPCが血清総IgEの上昇を抑制することが示されたことから、R-MPCをアレルギー性鼻炎の治療あるいは予防にも応用できると推測される。そこで、OVAでマウスを感作してアレルギー性鼻炎モデルを作成し、その後にR-MPCとOVAを連日舌下投与して、アレルギー性鼻炎症状ならびに血清中のOVA特異的IgE抗体の上昇が抑制されるかを検討することを計画している。もし、我々の仮説通りにアレルギー性炎症が抑制できれば、現在臨床で実施されているダニやスギ舌下免疫療法における新規のアジュバントとして応用できるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述したように東京大学医科学研究所からPspA、P6、そしてナノジェルを供してもらうことができず、この実験に予定していた経費がそのまま未使用となり、次年度に繰り越すこととなった。したがって、次年度にリコンビナントPspAおよびP6を入手できれば、直ちに予定していた実験を行う予定である。しかし、十分量のPspAとP6を入手できない可能性もあるため、次年度はR-MPCとPC-KLHの結合物を作成し、その免疫応答ならびに複数の肺炎球菌およびインフルエンザ菌に対する交差反応性を、CTをアジュバントとして用いた群を対照として、R-MPCのアジュバント効果ならびに細菌感染の予防効果を比較検討することを計画している。また、R-MPCに血清総IgEの産生抑制効果があることから、OVA感作によるアレルギー性鼻炎モデルマウスを作成し、そのアレルギー性炎症の抑制効果を観察する実験を計画し、その経費として使用する。具体的には、OVAをアラムとともに3回全身投与したのちOVAを5回点鼻してアレルギー性鼻炎症状を発症させる前、そしてOVA全身感作ののちOVAを点鼻してアレルギー性鼻炎を発症させた後に、R-MPC結合化OVAを7日間連日舌下投与して、アレルギー性鼻炎症状と血清中のOVA特異的IgE値を対照群と比較する。繰り越された経費の一部を、本研究に使用するマウスおよびOVA特異的IgE測定キット、ELISAに用いる抗体等の購入費として使用する。
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