めまい平衡障害の原因は診療科の枠組みを超えて多岐にわたる。内耳障害、脳梗塞・出血や変性疾患、奇形や腫瘍など小脳や脳幹を中心とした中枢の障害によるめまい、血液循環の調節障害、頭痛、精神疾患によるめまいもある。中枢での視覚と前庭の相互作用に着目して、人工的に前庭性温度眼振を誘発して視刺激検査を行い、中枢の平衡機能障害をより鋭敏に診断する検査法を開発するために以下を実施した。 健常成人を対象に温度眼振出現中に自動的に被験者の眼前に視標が提示され経時的に視刺激が行えるiPhoneアプリ(開発)を用いて、追跡眼運動を行わせた。その間の複合眼運動を記録し、離散的フーリエ変換を用いて追跡眼運動と前庭性眼振成分に分け、追跡パターンおよぴ前庭性眼振の抑制率を算出した。追跡パターンは円滑で、眼振抑制率は以前我々が医療機器(製造中止)を用いて行った健常成人の平均値と同等で中枢性めまい患者の平均値より有意に高かった。 健常成人を対象に温度眼振出現中にiPhoneアプリ(開発)を用いて、温度眼振出現中に視運動刺激を行った。その間の複合眼運動を記録し波形パターンを解析した。健常成人では、視運動刺激を付加すると視運動刺激に従う眼振が誘発された。しかし、視運動刺激の方向の違いにより眼振数および最大緩徐相速度に有意差がみられた。 これらの事実から前庭-追跡眼運動と前庭-視運動性眼運動の中枢相互作用で異なる反応様式を示すことが明らかとなった。 本検査システムがめまい診療に普及することにより、中枢性めまいの診断精度が高まり複数の診療科や病院を受診しても適切な診断がつかないまま医療機関を渡りさまよう、いわゆる『めまい難民』を一人でも多く救うことが期待できる。
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