研究課題/領域番号 |
19K09863
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉川 直子 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (50400924)
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研究分担者 |
関 直彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (50345013)
花澤 豊行 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (90272327)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 頭頸部扁平上皮癌 |
研究実績の概要 |
頭頸部扁平上皮癌において、再発症例に対する治療は難渋し、その効果も限定的である。治療抵抗性を獲得した癌細胞の分子機序を理解する事は、再発症例に対する新規治療法の開発に繋がると考える。最近の癌研究の成果として、低分子RNA核酸であるマイクロRNAの発現異常が、癌細胞の進展、転移、治療抵抗性に深く関与している事が明らかとなった。1種類のマイクロRNAは、極めて多くの遺伝子の発現を制御している事から、癌に関与するマイクロRNAを起点として、癌細胞の複雑な分子ネットワークを探索する事が可能である。 本研究では、cetuximab/radiation 治療後に再発した患者臨床検体から、「頭頸部扁平上皮癌・治療抵抗性・マイクロRNA発現プロファイル」を作製し、マイクロRNAを起点とした分子経路の探索を継続している。これまでに、頭頸部扁平上皮癌において、miR-145-3p、miR-150-5p、miR-150-3pについて、頭頸部扁平上皮癌における癌抑制型マイクロRNAである事を証明した。また、肺扁平上皮癌における解析から、miR-451aが、癌抑制型マイクロRNAである事を証明した。更に、これら癌抑制型マイクロRNAが制御する癌促進型遺伝子を探索した結果、MYO1B、SPOCK1、KIF2Aを見出した。これら遺伝子は、頭頸部扁平上皮癌および肺扁平上皮癌組織で高発現しており、異常発現により癌の遊走能、転移能を促進することを認めた。The Cancer Genome Atlas (TCGA)を用いたコホート解析から、これら遺伝子の発現異常は、頭頸部扁平上皮癌患者の予後予測因子である事が明らかとなった(OS、MYO1B: p=0.0045、SPOCK1: p=0.003)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロRNAの生合成において、2本鎖RNAから派生するpassenger鎖は、細胞質で分解され、機能を有しないとされていた。しかしながら、これまでの研究において、一部のpassenger鎖マイクロRNAは、癌抑制型マイクロRNAとして機能している事を明らかにしてきた。本年度は、「頭頸部扁平上皮癌・治療抵抗性・マイクロRNA発現プロファイル」から、癌組織で発現が抑制されている、miR-99a-5p(guide鎖)およびmiR-99a-3p(passenger鎖)に着目し機能解析を施行した。まず、これらマイクロRNAの発現について、臨床病理学的な解析をThe Cancer Genome Atlas (TCGA)を用いたコホートデータを用いて行った。その結果、miR-99a-5pおよびmiR-99a-3pの低発現群の患者群は、高発現群の患者に比べて、5年生存率が有意に低い事が明らかとなった(miR-99a-5p:p=0.0008、miR-99a-3p:p=0.0012)。次に、これらマイクロRNAを頭頸部癌細胞株(FaDuおよびSAS)に核酸導入し、癌抑制機能について検討を行い、これらマイクロRNAは、癌細胞の遊走能と浸潤能を制御している癌抑制型マイクロRNAである事を明らかにした。 本研究では、miR-99a-3p(passenger鎖)が制御する頭頸部扁平上皮癌における癌促進型遺伝子の探索を行った。探索の結果、114遺伝子がmiR-99a-3pの標的候補となった。これら遺伝子について、多変量解析を行った結果、5種類の遺伝子の発現が独立した予後予測因子である事が明らかとなった(STAMBP: p=0.0179, TIMP4: p=0.005, TMEM14C: p=0.035, CANX: p=0.0074, SUV420H1: p=0.0251)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の基盤となる「頭頸部扁平上皮癌・治療抵抗性・マイクロRNA発現プロファイル」には、これまで解析が進んでいないマイクロRNAが多数含まれている。これらマイクロRNAについては、機能解析を継続し、ひきつづき頭頸部扁平上皮癌・癌抑制型マイクロRNAを探索する。癌抑制機能が明らかとなったマイクロRNAについては、さらにマイクロRNAが制御する癌促進型遺伝子の探索を行う。 本年度は、これまでの研究において頭頸部扁平上皮癌における癌促進機能が明らかとなった遺伝子について、ゲノム編集技術を用いて、癌促進遺伝子をノックダウンした細胞を作製する。更に、ゲノム編集細胞を用いて、抗癌剤や分子標的治療薬に対する感受性試験を行い、頭頸部扁平上皮癌・治療抵抗性に関わる遺伝子を選択する。治療抵抗性に関与する遺伝子が同定できた場合は、これら遺伝子を起点とした分子経路の探索を行い、分子経路を遮断する戦略(ドラッグ・リポジション)を考案し実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、予定よりも物品費が節約できた為、次年度使用額が生じた。 次年度は、機能解析・ゲノム編集を継続する為の費用に使用する予定である。
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